相対論的クーロン電場の可視化

開催日時

2023/08/10(木)10:00~11:30

開催場所

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講演者

太田 雅人氏 (自然科学研究機構・核融合科学研究所)

言語

日本語

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島田 美帆 (PHS 4614)


概要

本セミナーでは、電気光学検出を用いた、高エネルギー電子ビームの周りに形成される相対論的クーロン電場の超高速計測に関して報告する。
電気光学検出は、非線形光学効果を利用した、電場計測手法である。二次の非線形効果であるポッケルス効果を有する電気光学結晶に、計測対象である電場を印加する事で、結晶中に複屈折(屈折率の非等方性)を誘起し、これを結晶に入射・通過させたプローブ光の偏光変化として読み取り、電場の強度・時間発展を計測する。電気光学結晶の電場応答速度は超高速であり、サブピコ秒の時間分解能を有する電場計測が可能である。
1905年にアインシュタインによって発表された特殊相対性理論に関する論文中で「時間の遅れ」、「静止質量」、「電場の収縮」と言った、我々の常識を覆す現象が予言された[1]。時間の遅れ、静止質量は、既に実証され、それぞれ、GPSや原子力発電に応用されている。一方で、電場の収縮は、100年以上に渡り、直接実証はなされていなかった。電場の収縮(相対論的クーロン電場)とは、超高速で等速直線運動を行う、荷電粒子周りのクーロン電場が、進行方向に対して収縮する現象である。今回、我々は、電気光学検出を用いた超高速電場時空間分布計測により、この電場の収縮を二次元的に可視化し、その実証に成功した[2]。本研究成果は、既存の相対性理論の実験結果の中でも、より直感的で直接的であると言える。
電気光学検出を用いた相対論的クーロン電場の計測は、理学の視点だけでなく、工学としても重要なテーマであり、高エネルギー電子ビームの性能評価として活用できる[3]。取得される電場時空間分布から、電子ビームのパルス幅(縦方向サイズ)や電荷量をシングルショットで同時推定できる。本計測手法は、電場分布を介した間接的なビーム診断であるため、非破壊測定・リアルタイムでのビーム診断が可能であり、さらに、サブピコ秒の高い時間分解能を有するという利点を有する。

[1] A. Einstein, Ann. Phys. 17, 891–921 (1905).
[2] M. Ota et al., Nat. Phys. 18, 1436–1440 (2022).
[3] Y. Okayasu et al., Phys. Rev. Spec. Top.—Accel. Beams 16, 052801 (2013).