陽子ビームにさらされるとチタン合金製のビーム窓がもろくなる原因を解明-RaDIATE国際コラボレーションによる大強度加速器標的・ビーム窓材料開発-

図5:Ti-6Al-4V合金のβ相の透過型電子顕微鏡による観察の様子。各画面の右上に示す電子線の回折画像では、母相(β相)に相当する明るい点の間に、ビーム照射量の増加に伴って明確なスポットがあらわれてきました。そのスポットのひとつに相当する部分(→で示します)を選び出した電子線の透過画像(大きい画面)では、高密度に分布する白い点が、照射量の増加に従って、左→中→右の順に大きくなっていく様子が見てとれます。これが今回初めてとらえられた、陽子ビーム照射によって誘起されたω相が照射量の増加に伴い成長していく様子です。

RaDIATE 国際コラボレーション
J-PARC センター
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)
フェルミ国立加速器研究所(FNAL)
パシフィック・ノースウエスト国立研究所(PNNL)
ブルックヘブン国立研究所(BNL)
科学技術施設会議(STFC)ラザフォード・アップルトン研究所(RAL)

研究成果のポイント

●J-PARC やフェルミ国立加速器研究所(FNAL)などの大強度加速器施設の「ビーム窓」に用いられている高強度の64 チタン合金は、陽子ビームにさらされるとかたく、もろくなることが知られており、「レプトンCP 対称性の破れ」を検証する日米の長基線ニュートリノ振動実験で必要となる大強度のビーム運転を安定に行うためには、この原因解明が急務でした。

●今回国際連携で加速器標的やビーム窓に用いる材料への大強度陽子ビーム照射を実施して、最先端機器による分析を行ったところ、64 チタン合金には、その主要なα(アルファ)相の結晶に、陽子ビームの照射によってナノメートルサイズの欠陥クラスターが高密度で生成するとともに、そのβ(ベータ)相の中に微細なω(オメガ)相と呼ばれる結晶構造が高密度で成長していくために、著しくかたくてもろくなった可能性を明らかにしました。高エネルギー陽子や中性子に比較的低温でさらされた材料中に生成した欠陥クラスターが硬化を引き起こすことは他の金属でも観測されていますが、陽子ビーム照射がチタン合金中に高密度のω相の生成と成長を誘起する現象は、本研究で初めて観測されました。この現象が材料の性能劣化に与える影響について、引張試験で破壊した材料の破面の解析や原子レベルでの観察などを実施して、さらに調査する必要があります。

●今回の成果は、大強度の陽子ビーム運転に耐えるビーム窓用チタン合金材料とその熱処理方法を決定するための大きな指針となります。さらに今後、核融合炉や核変換システムなどで必要とされる、照射損傷の影響を受けない新材料の開発にも役立つことが期待されます。

詳しくは  プレスリリース  をご参照ください。