溶媒を混ぜると高分子が溶けなくなる現象を解明

高分子溶液の軟X線吸収分光計測

発表のポイント

  • ポリイソプロピルアクリルアミド(PNIPAM、プニパム)(1)は、水とメタノールには溶けるが、水とメタノールを混ぜた溶液には溶けなくなる共貧性溶媒効果(2)を示すことが知られている
  • PNIPAM周辺の分子間相互作用を選択的に調べることができる軟X線吸収分光計測(3)と計算機シミュレーションを用いて、共貧性溶媒効果のメカニズムを調べた
  • 溶液中で形成される微小なメタノールの塊とPNIPAMの間の疎水性相互作用(4)により、PNIPAMの疎水性水和(4)が壊されることが、共貧性溶媒効果が出現する原因であることを明らかにした

概要

自然科学研究機構 分子科学研究所/総合研究大学院大学の長坂将成助教、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所/総合研究大学院大学の足立純一講師、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所の熊木文俊博士研究員、浙江大学(中国)の望月建爾教授、Yifeng Yao大学院生は、軟X線吸収分光計測と計算機シミュレーションを基にして、ポリイソプロピルアクリルアミドが、水とメタノールそれぞれに溶けるのに対して、水とメタノールを混ぜた溶液には溶けなくなる共貧性溶媒効果のメカニズムを明らかにしました。

本研究成果は、国際学術誌『Physical Chemistry Chemical Physics』に速報として、2024年4月17日付でオンライン掲載されました。

詳しくは  プレスリリース  をご参照ください。

用語解説

(1) ポリイソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)
刺激応答性高分子であり、温度、pH、イオン濃度などの化学環境の変化により、高分子鎖が伸びたり、丸まった構造になることが知られている。図にこの化学式を示した。

(2) 共貧性溶媒効果
個々の液体では溶ける物質が、その液体を混ぜ合わせると溶けなくなる現象。高分子に多く見られる現象であるが、小さな有機分子でも出現することが近年分かってきている。

(3) 軟X線吸収分光計測 
2 keV以下の軟X線を試料に照射して、その透過量を計測する手法である。軟X線照射により、炭素、窒素、酸素などの軽元素の内殻電子が励起されるため、元素選択的に物質の電子状態を調べることができる。例えば、酸素1s電子が励起される光エネルギー領域を酸素K吸収端と呼び、酸素原子周辺の電子状態を調べることができる。測定には高強度の軟X線が必要なため、一般的に軟X線吸収スペクトルは、加速器が生み出す放射光を用いて測定される。

(4) 疎水性相互作用、疎水性水和
メタノール分子のメチル基などは疎水性であり、水が近づきにくい。水が排除されることで、疎水基同士が近づきやすくなることを疎水性相互作用という。一方、疎水基に水が配位する現象も知られていて、これを疎水性水和という。

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