構造が不規則な「高イオン伝導体Ba7Nb4MoO20」の中の隠れた規則性を発見

-共鳴X線回折と固体NMRを組み合わせた新たな手法で解明-

東京工業大学
山形大学
高輝度光科学研究センター
高エネルギー加速器研究機構
J-PARCセンター

概要

東京工業大学 理学院 化学系の安井雄太大学院生(研究当時)、八島正知教授、藤井孝太郎助教ら、物質・材料研究機構 先端材料解析研究拠点の丹所正孝主幹研究員ら、山形大学 学術研究院の飯島隆広教授、高輝度光科学研究センター、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所の大友季哉教授らの研究グループは、共鳴X線回折(RXRD)と固体核磁気共鳴(NMR)を組み合わせた汎用性の高い新しい定量法「RXRD/NMR法」を用いて、不規則な構造を持つ新イオン伝導体Ba7Nb4MoO20における、隠れたモリブデン(Mo)の化学的規則性を発見した。

結晶性材料の特性は構成原子の化学的規則・不規則性に強く依存する。X線原子散乱因子と中性子散乱長の両方が類似した複数の原子が化学的規則・不規則性を示す材料は数多く、2種類の元素の組み合わせだけでも270種類も存在する。しかし、RXRDなど単独の回折手法では粉末や多結晶の材料分析が容易ではなく、化学的規則・不規則性を調べる汎用性の高い手法が切望されていた。
今回、研究グループは、RXRDと固体NMRに第一原理計算を組み合わせたRXRD/NMR法を提案し、Ba7Nb4MoO20·0.15 H2Oにおける隠れたMoとニオブ(Nb)の規則・不規則性を定量的に決定することに成功した。さらに中性子回折実験も用いてプロトンの位置を含めた完全な結晶構造を解明した。結晶構造においてイオン(O2–とH+)が伝導する層の近くにMoが規則化(局在)しており、それが高いイオン伝導性と関係することが分かった。この新発見は最近注目されているBa7Nb4MoO20など六方ペロブスカイト関連酸化物のイオン伝導の科学と技術に進展をもたらすと期待される。

RXRD/NMR法は、汎用性が高いことから、化学的規則・不規則性を研究する新しい道を切り拓くと考えられる。また、固体酸化物形燃料電池(SOFC)など電気化学デバイスへの応用が促進されると期待される。

本研究成果は2023年4月24日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。

要点

  • 結晶性材料の化学的規則・不規則性を調べるための、共鳴X線回折と固体NMRを組み合わせた汎用性の高い新たな定量的な手法「RXRD/NMR法」を開発
  • RXRD/NMR法により不規則な構造を持つ新イオン伝導体Ba7Nb4MoO20における隠れたMoの化学的規則性を明らかにし、中性子回折も組み合わせてプロトンの位置を含めたBa7Nb4MoO20·0.15 H2Oの完全な結晶構造を解明
  • イオン伝導機構の理解、構造解析法および固体酸化物形燃料電池(SOFC)など電気化学デバイスへの応用に新たな道を切り拓くと期待

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