超高速イオン伝導と高安定性を示す 低環境負荷材料を創製し、新しい伝導機構を解明

-新イオン伝導体・燃料電池・センサー等の開発を加速-

東京工業大学
高エネルギー加速器研究機構
J-PARCセンター
東北大学

本研究成果のポイント

  • 従来の材料より175倍高い酸化物イオン(O2−)伝導度を持つBa7Nb3.8Mo1.2O20.1を創製
  • 新材料は高いプロトン(H+)伝導度、高い安定性、希土類や鉛を含まないこと、低い焼結温度という低環境負荷といった特徴も持つ
  • バケツリレー型超高速酸化物イオン伝導などの、新しいイオン伝導機構を解明

概要

東京工業大学 理学院 化学系の八島正知教授、作田祐一大学院生、藤井孝太郎助教、村上泰斗特任助教(研究当時)、安井雄太大学院生(研究当時)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所(研究当時)の萩原雅人博士、東北大学金属材料研究所の池田陽一助教と南部雄亮准教授、オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)のMaxim Avdeev博士とJames R. Hester博士らの研究グループは、中低温域で高い酸化物イオン伝導度、高いプロトン伝導度、高い安定性を示す新物質Ba7Nb3.8Mo1.2O20.1を発見した。

Ba7Nb3.8Mo1.2O20.1の酸化物イオン伝導度は、実用材料のイットリア安定化ジルコニア(YSZ)より、306℃で175倍高く、357℃以下で酸化ビスマス固溶体より高いという結果が得られた。また、湿潤空気中の伝導度(酸化物イオン伝導度とプロトン伝導度の合計)は従来材料Ba7Nb4MoO20の13倍であった。さらに、Ba7Nb3.8Mo1.2O20.1における大量の過剰酸素および水和したH2Oの酸素原子が、(Nb/Mo)2O9二量体および五配位多面体(Nb/Mo)O5(単量体)として取り込まれ、この二量体、単量体と四面体(Nb/Mo)O4の消滅と再生成により超高速酸化物イオン伝導が起こることが分かった。この拡散機構ではNb/Moが酸素原子をバケツリレーのように移動させると考えることができる。超高速酸化物イオン伝導の一因である低い活性化エネルギーは、結晶構造における幅広い酸化物イオン伝導層に起因することも見出した。また、結晶構造における六方最密充填BaO3層におけるプロトン移動が、高いプロトン伝導度の原因であることを明らかにした。この新しいイオン伝導機構の解明により、さらなる新材料の発見が促進されると考えられる。また、希土類や鉛を含まず、焼結温度が1,100~1,200℃と低く、環境負荷、資源、安全、安定性の上でも優れた超高速イオン伝導体Ba7Nb3.8Mo1.2O20.1の発見は、低コスト高性能燃料電池など電気化学デバイスの開発につながると期待される。

本研究成果は2023年11月14日(米国時間)に米国化学会の学術誌「Chemistry of Materials」に掲載された。

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