新奇トリテルペン生合成経路を発見

概要

テルペノイド化合物は、知られているだけで80,000以上の分子が単離されている天然物の一群であり、生物活性を持つ化合物が数多く含まれることから、医薬品候補化合物の探索ソースとしても非常に重要な化合物群の一つです。その中でも、炭素数30(C30)のトリテルペンは、微生物、植物、動物に普遍的に見いだされ、細胞膜の重要な構成成分の一つであり、生物の生理機能を調節するステロイド化合物の前駆体などが含まれます。これまでに、トリテルペンの生合成経路としては、炭素数15(C15)のファルネシル二リン酸(FPP)が2量化して生成するスクアレンを経由するものしか知られていませんでした。

今回、東京大学大学院薬学系研究科の阿部郁朗教授と森 貴裕助教、Hui Tao特任研究員、および、高エネルギー加速器研究機構の千田俊哉教授と安達成彦特任准教授、武漢大学のTiangang Liu教授、ボン大学のJeroen Dickschat教授らの共同研究グループは、カビ由来テルペン合成酵素の機能解析を行い、スクアレンに由来せずに、C5 イソプレン単位ジメチルアリル二リン酸(DMAPP)とイソペンテニル二リン酸(IPP)を基質として、C30トリテルペンの骨格を一挙に構築する、画期的な新奇生合成酵素を世界に先駆けて発見しました。

さらに、共同研究グループは、安定同位体を利用した酵素反応機構の精密解析や、酵素のX線結晶構造解析、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析、さらには立体構造をもとにした部位特異的変異導入により、2種類のトリテルペン合成酵素の反応機構の詳細を明らかにすることに成功しました。本成果は既存の常識を覆す新たな生合成経路と画期的な新奇酵素の発見であり、新しい分子認識化学の開拓や新たな触媒概念の確立など、学術的に大きなインパクトを与えるとともに、今後、合成生物学の手法を用いた生合成マシナリーの再設計により、天然物を超える新規機能分子の創製など、創薬研究に幅広く貢献することが期待されます。

本研究成果は2022年6月1日付で 英国科学雑誌 Nature(オンライン版)に掲載されました。

本研究成果のポイント

● テルペノイド化合物の生合成に関わるテルペン合成酵素の機能解析から、スクアレンに由来せずに炭素数30のトリテルペンの骨格を一挙に構築する、画期的な新奇生合成酵素を自然界から初めて発見しました。
● ホモログ酵素の機能解析から、この新奇なトリテルペン生合成マシナリーがさまざまなカビに広く保存されていることを証明しました。
● 今後、合成生物学の手法を用いた生合成マシナリーの再設計により、天然物を超える新規機能分子の創製など、創薬研究に幅広く貢献することが期待されます。

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