【KEKのひと#49】一つ一つの積み重ねで世の中を変える 阪井寛志さん

学生のころから自作の実験装置で試行錯誤を続け、最先端の加速器の開発に携わり続けたKEK応用超伝導加速器イノベーションセンター(iCASA) 教授の阪井寛志さん。コツコツと積み上げてきた実験で世の中が変わってきたといいます。そんな実験の積み重ねで見える未来とは?ご本人に聞きました。

 

加速器の研究に携わるようになったきっかけはなんですか?

「高校の時、数学と物理が得意でした。アインシュタインの相対性理論などのように、今までの常識と違ったことが数式で表現できて、将来のことや宇宙のことが表現できる物理の世界に魅力を感じていました。大学に入ってから素粒子に興味を持ちはじめ、さらに実験で物事が詳しくわかっていくことの面白さにも気づきました」

 

大学の時はどのような実験を?

「京都大学3年の時には超伝導の実験を行い、きちんとつくることができたのが楽しかったです。また、解析も行い、色々勉強させてもらいました。大学4年の時には、素粒子実験の研究室に入り、理論的なものは論文を読むとともに、その中で、テーブルベンチでできる実験装置を作って実験を行いました。

 

一から実験装置を立ち上げ、今までわからなかったものがどうやって実験で理解されてきたのか、分かっていく過程が楽しかったですね。また、グループで実験を行っていたのですが、みんなが困っている中、私がバイトから帰ってきて研究室に戻ってみんなと実験を行うと、なぜかうまくいくということがありました。感覚的なものなのですが、そこで実験が向いているのかなと思いました」

 

大学院ではどのようなことを?

「それで大学院では高エネルギー物理学の実験を専攻しました。当時はKEKにあった陽子シンクロトロンがまだ稼働中で、先輩たちはそこで実験を行っていたのですが、実験は終了。我々の代から、新しい実験を行うということになりました。ほかの同期は、最先端のKEKBやATLASなどの実験を選んでいました。ですが私は、同時期にKEKで建設された試験加速器であるATF(先端加速器試験装置)での実験を選びました。これは大型の次世代加速器、国際リニアコライダーで採用される見通しのものです。

 

修士1年終わりから、ATFに来て、研究をしていました。リニアコライダーに必要な当時世界最小のビームをATFにあるダンピングリングで達成するのが目標でした。小さなミクロンサイズのビームがリングで実際に達成できているかをどう測るかがATFの課題でした。ミクロンサイズのビームを測る方法として、ミクロンのワイヤーを動かしてサイズを測る方法がありましたが、リングで周回するビームにワイヤーを当てるとワイヤーが切れてしまう難しさがありました。

 

そこで、切れないワイヤーとしてレーザーをミクロンサイズに絞ってワイヤー代わりにしてサイズを測定することを新たに考えました。このレーザーの強度を上げて、リングに合うような形にできないかと試行錯誤を重ね、ついに当時世界最小のビームを測ることができました。これが博士論文になりました。

 

新たなアイデアを自分の手で試行錯誤しながら、実験メンバーと一つ一つ装置をくみ上げ、加速器という大きなものの性能を決めることができるというのが、この時に得た経験でした。非常に大きな醍醐味でしたね。自分の手で物事が変わるというのが、私がATFでの実験を選んだ理由だったのだと思います。加速器そのものに非常に興味が沸いた時期でもありました」

 

今はコンパクトERL(cERL)の開発に携わっていらっしゃるのですね。

「加速器の開発を続ける中で、2006年に、大電流の加速器ERLに参画させてもらうことになりました。これまでと違う仕組みの加速器なので、最初の半年くらいはほかの研究者との会話の中に出てくる単語も分からなかったくらいでした。ERLは、エネルギー回収型線形加速器といって、一度加速したビームのエネルギーを超伝導加速空洞に戻し、回収することで、次の新しいビームの加速に「再利用」できるのが大きな特徴になります。

 

ビームをぐるぐると何周もまわすリング型の通常の加速器と違い、最初の電子ビームが良ければ、その性能を保持して、加速することがERLでは可能です。さらに1周回った後、エネルギーだけ次のビームに託し、常に新しいビームを提供できます。このERLの研究を積み重ねていけば、今までにないフェムトセカンド(1000兆分の1秒)のビームで、かつ大強度のビームを作ることができて、時間分解能が良い、世界でもまだできていないような大強度のX線を実現できるかなと考えています。

 

このERLの開発の中でERLの肝となる超伝導加速空洞の開発に携わりました。そのERLのテスト加速器cERLを2013年に無事に建設運転まで行うことができて、現在も稼働中で、これが今のiCASAの活動につながっています」

 

加速器を森の中にもっていくという話を聞いたのですが?

「超伝導加速空洞の新たな小型加速器への応用で、別の新しい超伝導材料を用いた超伝導空洞を使うと、省電力でコンパクトで大電流のものができます。この電子ビームの応用の一つで木材に電子ビーム当てて、新素材であるナノセルロースを作ることを考えています。

 

従来ナノセルロースを作るには機械的に木材をすりこぎで細かくする方法や化学処理を行うものだったのですが、それが電子ビームを当てるとさらっと一瞬にできるようです。効率ではこれまで初期で20%くらいだったのが電子ビーム照射では80%くらいになるという結果がでました。

 

一方、うっそうと生えている荒れた森はCO2を排出するなどで環境を悪くするので、間引きしないといけないのですが、その近くまで加速器を持っていき、有効利用できればと思っています。病室一室くらいの大きさの加速器を山間部近くに持っていって、大量の木材に当てていく。そうしてできた多くのナノセルロースで、自動車の樹脂の材料や、プラスチックのゴム、化粧品などに付加価値がつけられます。これまでは石油材料だったものを再利用可能なバイオ材料になって循環していくことになります」

 

今後の目標はなんですか?

「このように新しい加速器をつくってまた、世の中を変えることにつながればと思っています。特に、超伝導空洞を用いてERLを大電流でやっているのは現在KEKしかないので、得意なところをいかして、超伝導の大電流化で、加速器の仕組みを変えるブレークスルーになればと思います。またERLの応用の一環では具体的には半導体用EUVリソグラフィーのための大強度EUV光源をERLベースで作れればと思っております。

 

今まで同様、一つ一つやっていけば、世の中を変えることにつながるのかなと。これまで非常に面白く、加速器開発を突っ走ってきていろいろやらせてもらったので、これからみなさん特に若い人と一緒に、さらにアイデアがバンバン言えるような形で開発をやっていければと思っています」

 

今日はありがとうございました。

(聞き手 牧野佐千子)

 

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