【KEKのひと #40】宇宙の謎を理論で解決! 北野龍一郎(きたの・りゅういちろう)さん

「ダークマター(暗黒物質)の正体は?」「宇宙初期の状態は?」――。物理学のこれまでの理論で説明がつかない様々な謎を解決する理論構築に取り組むKEK理論センターの北野龍一郎さん。どのようにその謎に挑むのか?新しい発想はどのような時に生まれるのか?聞きました。

北野さんは、11月8日(木)千代田区紀尾井町LODGEにて開催の【KEKサイエンスカフェ@Yahoo!LODGE】作家 平野啓一郎と物理学者 北野龍一郎が紡ぐ人間と宇宙のはなしに登壇します。参加お申込みはこちらから。

なぜ素粒子理論を専門にしようと?

「学部は京都大学工学部で、核融合を研究したいと思っていましたが、どうやらできそうにないと分かり、おもしろくなくなりました。量子力学、電磁気学などの理論の計算がとてもおもしろかったです。マクスウェル方程式なんかは、この世界の現象すべてを4つの式で全部説明できてしまうところなど、美しいです。修士はそのまま京大の工学系でしたが、博士で本格的にきちんと理論をやろうと、総研大(総合研究大学院大学)に来ました。当時は、理論を考える人が一番エライと、例えばタイムマシーンを作るなら、作る人より作り方を考える人の方がエライじゃないか、と思っていたんですね(笑)。」

博士を取られた後は?

「2002年に総研大で博士号を取得後、ポスドクで東北大学の理学部に行きました。その後、米国・プリンストン高等研究所に3年間、スタンフォード線形加速器センターで博士研究員2年間を経て、2007年ロスアラモス国立研究所スタッフに。2009年に東北大学准教授として日本に戻ってきて、2013年からKEKです」

現在、どのような研究をされていますか?

「最近行ったのが、簡単に言うと、無数にある物理理論をふるいにかける作業です。宇宙のはじまりにインフレーションがあったとされていますが、インフレーションの要因と言われる『インフラトン粒子』が出てこられる理論とそうでない理論の見分け方を理論センター研究員の江間さんと寺田さんと一緒に議論して発表しました。」

今のところ、インフレーション自体があったのは確実と言えるのですか?

「インフレーションでは、宇宙の最初の時期に一度、今観測できる範囲の外側まで宇宙の空間がふくらんで、また戻ってきているのですが、それが起こったのは確実と言えます。それから、インフレーションの後に、なぜ今の世界になったのかを考えると、暗黒物質の起源などが問題になってきます」

暗黒物質の正体についての理論は、どのようなものがありますか?

「これまで有力だったSUSY(超対称性粒子)は、実験で今のところ見つかっていないので、それについての多くの理論が棄却となりました。ほかにも暗黒物質の候補はいろいろあります。CP対称性の破れを勝手に消してしまう『アクシオン粒子』とか、光子(光の粒子)に似たもので質量を持っている粒子とか。たくさんのヒッグス粒子がぐちゃぐちゃ固まったやつかも、というのが私の説です」

ヒッグス粒子がぐちゃぐちゃ…が北野説ですか。どんなイメージでしょう?

「同じ理論センターの(研究員)倉知さんと一緒に考えたのですがね。ぐちゃぐちゃというよりは、くるくる丸まった感じかな。電弱スキルミオン説と言います」

そういった新しい仮説の発想は、どういった時に生まれるものですか?お散歩中とか…。

「人と話しているときですね。あと、論文を読んでいる時」

歴史上の人物で尊敬している人はいますか?

「尊敬とはちょっと違いますが、19世紀最大の数学者と言われるガウスはすごいなと思います。小学生の時に自分で計算して素数分の1の表を作って、一生掛け算をしないようにしていたり、後にほかの人が発見した定理も、ガウスのメモの端にすでに書かれていたりするんです。大きな発見と言われたことも、ガウスはもう知っていたのか、と。ずば抜けた天才ですね。」

今度対談される平野啓一郎さんは、「分人主義」という提唱をされています。「本当の自分」というのは存在せず、それぞれの相手によって変わる自分が「分人」で、個人は文人の集合体という考え方ですね。それを素粒子の振る舞いに絡めるとどうなるでしょう?

「そこは無理やり絡めなくてもいいでしょう(笑)。でも、物理理論で『多世界解釈』というのがあって、例えば、これから家に帰ってワインを飲む北野と、飲まない北野がいる。それは確率で決まっていて、どちらも存在するという考え方です。宇宙はそうした粒子レベルで細分化された確率で成り立っているのですが、すべての選択肢の世界が同時に存在すると考えるのが多世界解釈です。」

ありがとうございました。平野さんとの対談、楽しみです。

(聞き手 広報室・牧野佐千子)