大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
国立大学法人東北大学
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所
国立研究機関法人 海洋研究開発機構
本研究成果のストーリー
Question
地球を構成する岩石が水と反応して水素を生み出す現象は、生命のエネルギー源や天然資源を生むプロセスとして注目されています。これまで蛇紋岩化反応等で水素が生成されること自体は知られていましたが、反応のどの段階でどれほどの水素が発生するのか、また岩石の種類によって発生する水素の量がどの程度異なるのかについては分かっていませんでした。
Findings
岩石に含まれる鉄は多様な酸化状態を示し、水を還元して水素を生み出す反応に深く関わっています。そこで本研究では、水素発生量の指標として鉱物中の鉄の量と酸化状態に着目し、放射光実験施設フォトンファクトリーアドバンストリング(PF-AR)において実施したX線吸収微細構造分析を用いることで、水素発生の鍵を握る鉱物中の鉄の化学状態を詳細に解析しました。この手法により、岩石に含まれる鉄の分布と化学状態を高い空間分解能で可視化することに成功しました。この手法をICDPオマーン掘削で得られた下部地殻と上部マントルの岩石コアに適用することにより、岩石の種類ごとの水素発生量と水素の発生段階に関する新たな知見を得ました。
Meaning
本研究の成果は、岩石圏の観察に基づく水素発生過程の物質的証拠をもとに、天然水素の発生メカニズムとその地質背景の理解を深め、生命のエネルギー源の多様性を示します。上部マントルの蛇紋岩化だけでなく、より地球表層に近い浅い岩体でも水素が発生することを示した今回の研究成果は、新しいエネルギー資源としての水素資源の探索に役立つ指標となる可能性があります。

概要
海洋底のマントルや下部地殻に含まれるかんらん石と水の反応、すなわち蛇紋岩化反応は、自然界における水素生成の主要なメカニズムとして知られています(図1)。この反応によって生まれる水素は、地下深部に生きる微生物のエネルギー源となるだけでなく、人類が利用可能な新たなエネルギー資源としても関心が高まっています。この反応では、岩石中の2価の鉄が3価の鉄へと酸化されると同時に水が還元され、その結果として水素が生成されます(式1)。しかし、水素発生の鍵を握る鉄の分布や化学状態が、反応の進行にともなってどのように変化するのかこれまで十分に分かっておらず、天然水素の生成プロセスの理解を難しくしていました。
高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所、東北大学、国士舘大学、国立極地研究所/総合研究大学院大学、海洋研究開発機構の共同研究グループは、ICDPオマーン掘削で得られたオマーンオフィオライトの下部地殻から上部マントルにかけての岩石掘削試料を対象として、X線吸収微細構造分析を用いて水素発生の鍵を握る鉱物中の鉄の化学状態を詳細に解析しました(図2)。その結果、岩石の種類や反応の進行段階に応じて水素の発生量が異なることを定量的に示しました。下部地殻の岩石は反応の初期段階で岩石1kgあたり24~366 mmolの水素を発生した可能性があり、これは従来主要な水素発生源と考えられてきた上部マントルの蛇紋岩化による水素発生量(岩石1kgあたり71~393 mmol)に匹敵します。このことは、従来水素の発生源として注目されて来なかった下部地殻の岩石も重要な水素発生源であることを意味します。一方、反応が進むと下部地殻の岩石に特有のケイ素を多く含む鉱物の変質によって、水素生成が抑制されることも明らかになりました。また、上部マントルの岩石は、反応が進んだ後でも2価の鉄が残存し、反応の後期における水素発生に寄与する可能性が示唆されました。本研究の成果は、天然水素がどこで・どの段階で・どれだけ生まれるのかを理解するうえで重要な手がかりを提供するものであり、将来的な水素資源の探索における有用な指標となる可能性があります。
今回の成果は2月12日に専門誌Geochimica et Cosmochimica Actaのオンライン版に掲載されました。


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