大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
本研究成果のストーリー
Question
高校の物理の教科書では、平行板コンデンサーに交流を流すと極板間の電場が刻々と変化し、この変化する電場(変位電流)が電場と磁場の変化の繰り返しを生み、空間を伝わる波(電磁波)になると説明されます。しかしこの説明は不正確です。実際には、変化する電場には電荷がつくる「クーロン電場」と、変化する磁場がつくる「誘導電場」の二つの成分があり、クーロン電場は電磁波をつくらないからです。実験で電磁波は、周波数がある程度以上大きくないと検出されませんが、これまでの2成分を分けない議論では、その理由をうまく説明できていませんでした。
Findings
交流が流れている平行板コンデンサーの極板間の変化する電場の密度(変位電流密度)の2成分について、振幅が交流の周波数とともにどのように変化するかを調べました。その結果、クーロン電場の変位電流密度の振幅は周波数によらず一定であることがわかりました。他方、誘導電場の変位電流密度は、低周波でも存在するものの振幅が極めて小さく、周波数が高くなるとともに増大し、やがてクーロン電場の変位電位密度と同程度の大きさになることがわかりました。
Meaning
低周波領域では、変位電流密度の誘導電場成分の振幅は非常に小さいので、磁場や電磁波を作らないクーロン電場成分に対して無視してよく、電磁波が検出されづらいことが根拠付けられました。また、周波数が大きくなるにつれて誘導電場成分が増大するため、それによって生じる電磁波も強くなり、次第に検出可能になることがわかりました。このように、変位電流密度の両成分の振幅の周波数依存性を知ることで、それが関係する電磁現象の正しい理解が進み、誤解による無用な議論が避けられます。

概要
電磁気学の電場、つまり、マクスウェル方程式における電場は、クーロン電場とファラデーの誘導電場の和です。電場の変化、つまり変位電流密度にも、それらの電場に関係する2成分があります。交流が流れているコンデンサーの極板間の磁場の測定が行われてきた低周波では、極板間の変位電流密度はクーロン電場の時間変化であり、それが磁場を作るという解釈は間違いであることを、以前の論文で示しました(2022年9月27日付プレスリリース https://www.kek.jp/ja/press/202209271400 参照)。一方、交流の周波数が高くなると、電場と磁場を同時に含む電磁波が生じますが、この時の変位電流密度は誘導電場の時間変化であることも、その論文で示しました。それでは、低周波領域で誘導電場の変位電流密度はどうなっているのでしょうか。また、高周波領域でクーロン電場の変位電流密度はどうなっているのでしょうか。
この問いに答えるために、交流が流れている平行板コンデンサーの極板間における変位電流密度の両成分について、振幅が、交流の周波数(角周波数ω)とともにどのように変化するかを調べました。極板は半径rの円板とし、極板間の距離は十分狭く、極板の端の効果は無視できるとします。これまで磁場の測定が行われてきた平行板コンデンサーの代表的なサイズとして、r = 5cm(直径10cm)の場合を想定し、広い周波数域での両成分の振幅の大きさを解明しました。その結果、交流電流の振幅が常に一定であるとすると(または、電流の振幅で規格化すると)、クーロン電場の変位電流密度の振幅は周波数によらず一定であることがわかりました。また、誘導電場の変位電流密度の振幅は、低周波では極めて小さく、ω2に比例して増大し、ω ~ c/rあたりから増加が緩やかになって、やがてクーロン電場の変位電流密度と同程度の大きさになることがわかりました。ここでcは光速で、c/rは光が距離rを進む時間の逆数です。極板の半径rが小さくなると、周波数ω ~ c/rはさらに大きくなり、誘導電場成分は更に小さくなります。

具体的に大きさを比較してみます。この大きさのコンデンサーでは、交流の周波数が f~1MHz(ω = 2πf ~ 6MHz)のようにかなり高い場合でも、誘導電場成分の振幅はまだ、クーロン電場成分の10-7(千万分の1)に過ぎません。このことから、磁場の測定が行われてきた周波数での変位電流密度は、磁場を作らないクーロン場の成分であるという議論は正しかったことがわかります。また、ωが大きくなるにつれて電磁波の原因となる誘導電場の変位電流密度が大きくなり、電磁波の強度も増して次第に検出可能になることがわかります。(どの周波数あたりで検出できるかは、むしろ検出器の感度の問題です)一方、極板間の磁場にも電磁波にも関わりのないクーロン電場の変位電流密度の振幅は一定で、常に誘導電場の成分より大きいか同程度です。このように、変位電流密度の振幅の周波数依存性に注意することで、それが関係する電磁現象に関する正しい理解が進むと期待できます。
なお、ここではコンデンサーの極板間における誘導電場の変位電流密度が次第に大きくなることを示しましたが、コンデンサーが主に電磁波が生じる場所であると言っているわけではありません。コンデンサーにつながるリード線の周りにも変動する磁場ができ、それによって誘導電場と変位電流密度ができています。周波数が上がってきたとき、主にそこから電磁波が発生します。
このように、コンデンサーの極板間における変位電流密度の二つの成分それぞれについて、その振幅の周波数依存性を調べることは、基本的な問題であるにもかかわらず、マクスウェル以来の電磁気学において検討されてこなかった問題です。American Journal of Physics に掲載された論文のEditor’s noteにおいて、「これは、上級レベルの電磁気学の講義における、適切な追加教材となるだろう」と評価されました。今後、電磁気学の教科書にも追加されることになるでしょう。
論文は11月1日発行の専門誌American Journal of Physicに掲載されました。
詳しくは プレスリリース をご参照ください。
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