5月23日と29日、KEKは、大阪・関西万博のイタリア館で開かれた2つの国際イベントに参加し、日伊の研究・教育機関間の連携や、基礎科学の社会的意義について発信しました。
23日には、イタリア国立核物理学研究所(INFN)主催のイベント「Research Infrastructures Shaping the Future(研究インフラが未来を形づくる)」が開催されました。このイベントでは、研究基盤が社会の成長に果たす役割や、国際連携による技術革新の可能性について、日伊の研究者たちが活発に議論を交わしました。
イベントは2つのラウンドテーブルで構成され、第1セッションにはKEK素粒子原子核研究所の齊藤 直人所長が登壇。INFNのサンドラ・マルベッツィ氏、エンゾ・プレビターリ氏(INFNグランサッソ研究所)とともに、基礎研究が生み出す先端技術が社会課題の解決や人材育成にどう貢献できるかをテーマに意見を交わしました。

齊藤所長はまず、SuperKEKBやJ-PARCなど日本の研究インフラについて紹介。「SuperKEKBでは電子と陽電子の衝突実験を行っていますが、この実験のコンセプトは、もともとイタリアで生まれたものです。現在では、両国が協力して地上に“小さなビッグバン”を生み出そうとしています」と述べ、日伊の研究の歴史的なつながりと関係の深さに触れました。
さらに、「私たちは実験だけでなく、加速器技術を生かして未来を築くことにも取り組んでいます。量子技術やAIなど新しい技術を取り入れ、科学のフロンティアを広げることで、実験の質も高められます。今ある技術を生かすことと未来の技術を探ること、両方を進めることが重要です」と今後の挑戦について紹介しました。加えて、「科学の成果は長い時間と多くの人の協力で生まれるもので、この協力の精神こそが科学の本質であり、他分野にも広げていくべきだと考えています」と述べ、基礎科学研究の国際性と協力の重要性を強調しました。
セッションは、科学ジャーナリストの森 旭彦氏が進行し、KEKやイタリアの大型プロジェクトと社会とのつながりがわかりやすく示されました。
29日には、イタリア大学長会議(CRUI)主催による日伊大学長懇談会が開かれ、日本とイタリアの大学長や関係機関の代表者が一堂に会しました。このフォーラムでは、大学と産業界、自治体など多様なステークホルダーを巻き込む「拡大されたパートナーシップ(Enlarged Partnerships)」の枠組みが紹介され、科学研究と社会実装の橋渡しの手法について意見交換が行われました。
KEKからは浅井 祥仁機構長が出席し、基調講演を行いました。講演では、欧州合同原子核研究機関(CERN)におけるATLAS実験や、国際リニアコライダー(ILC)をはじめとする国際的な大型研究プロジェクトにおいて、日本とイタリアがこれまで築いてきた緊密な協力関係を紹介。さらに、KEKつくばキャンパスにおけるSuperKEKB加速器とBelle II実験、ならびにJ-PARCからのニュートリノビームを用いたハイパーカミオカンデ計画など、日本が主導する先端研究プロジェクトの現状と進展について詳述しました。浅井機構長は、これらの取り組みを通じて、今後ますます日伊間の科学技術協力が深化していくことへの強い期待を表明しました。

今回の万博イタリアパビリオンで行われたイベントを通じて、KEKは日伊の学術・研究機関と連携し、基礎科学の意義やその国際的な広がりを紹介しました。今後も、科学を通じた国際的な対話と協力を進めていきます。