レプトンのふるまいはどれも同じか?

素粒子の崩壊にひそむ関係性を数式で解明

名古屋大学
高エネルギー加速器研究機構

本研究のポイント

・素粒子標準模型の前提のひとつに「レプトンフレーバー普遍性」があり、電子などの電荷をもつ「レプトン」3種は、質量の違いはあるものの、同じように素粒子反応すると考えられている。しかし近年、この前提に反する兆候が一部の粒子の崩壊過程で観測されており、その動向が注目を集めている。

・素粒子反応ではさまざまなパターンの崩壊が起こるが、その崩壊の割合の間には「和則(sum rule)」とよばれる経験則が知られている。本研究では、この和則の背景に重いクォークの対称性が潜んでいることを突き止め、異なる崩壊の和則の間に成り立つ厳密な関係式をはじめて理論的に導出した。

・この関係式は、異なる粒子の崩壊現象の整合性を理論的に検証する新たな枠組みを提供し、標準理論の精密な検証と今後の新しい物理の探索に役立つ重要な基盤となる。

研究概要

名古屋大学素粒子宇宙起源研究所(KMI)/高等研究院の井黒 就平 特任助教(研究当時:兼KEK特別助教/クロスアポイントメント)、高エネルギー加速機研究機構(KEK)素粒子原子核研究所の遠藤 基 准教授(兼KMI特任准教授/クロスアポイントメント)らの研究グループは、「レプトンフレーバー普遍性の破れ」を検証するための厳密な関係式を新たに発見しました。
素粒子物理学の標準模型は自然界の基本粒子とその相互作用を統一的に記述する理論として高い精度で検証されてきましたが、標準模型では説明できなさそうな現象も存在します。近年注目されているのが、電子やミュー粒子、タウ粒子といったレプトンのふるまいが種類によらず同じであるはずという「レプトンフレーバー普遍性」という性質が保たれていない可能性です。なかでもボトムクォーク(b)がチャームクォーク(c)とタウ粒子(τ)、ニュートリノ(ν)に崩壊する現象において、理論の予測と実験による測定結果の間にずれが報告されています。
本研究では、このような現象に関連して経験的に知られていた複数の粒子の崩壊率の間に成り立つ「和則(sum rule)」の理論的な背景を、重いクォークの対称性という観点から解明しました。とくにΛbバリオンとB中間子の崩壊を結ぶ厳密な関係式を導出し、将来の高精度実験における理論と観測の照合を助ける新たな枠組みを提示しました。
本研究成果は、2025年5月15日(日本時間)付『Journal of High Energy Physics(JHEP)』に掲載されました。

B中間子やΛbバリオンの崩壊は、見た目が異なるがいずれもボトムクォーク(b)がチャームクォーク(c)、タウ粒子(τ)、ニュートリノ(ν)へと崩壊する、共通の素過程が担っている。これは、見た目が違っていても共通の材料から作られるショートケーキとクレープのようなものである。本研究では、こうした崩壊過程の背後に潜む物理法則を明らかにし、それぞれの崩壊率(ケーキとクレープに相当)の間に成り立つ厳密な関係式を導き出すことに成功した。この関係式は電子、ミューオン、タウといったレプトンの素粒子反応が同じようにふるまうかどうかを検証するための、理論的な枠組みとして活用できる。【© KMI】

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