若手研究者と活発な議論 リニアコライダー議員連盟のメンバーがKEKを視察

視察を終えた議連メンバー(最前列左から奥野信亮衆議院議員、塩谷立会長、大野敬太郎事務局長、広瀬めぐみ参議院議員)とKEK、東大、総研大の関係者ら

国際リニアコライダー(ILC)の誘致に取り組む超党派のリニアコライダー国際研究所建設推進議員連盟の塩谷立会長(衆議院議員、元文部科学大臣)、大野敬太郎事務局長(衆議院議員)、議員連盟メンバーの奥野信亮衆議院議員、広瀬めぐみ参議院議員の4人が11月13日、KEKを視察しました。

議員連盟の一行は、山内正則機構長からKEKの研究活動全般について概要説明を受けた後、1時間ほどかけてKEK内の実験施設を視察しました。

視察は、ILCで使われる先端技術の開発が行われている現場から始まりました。

まず超伝導リニアック試験施設(STF)を視察しました。ここでは、超伝導空洞の開発をしています。空洞とは、電気を帯びた粒子を光速近くまで加速するための重要な装置です。ILCでは、電力消費を抑えつつ、電子とその衝突相手である陽電子を加速する性能を上げるため、超伝導技術を全面的に採用することになっています。

超伝導リニアック試験施設(STF)で道園真一郎教授(右端)から超伝導加速空洞の説明を受けました

空洞を垂直に立てて行う地上の試験装置の前で道園真一郎教授が「空洞の加速性能を評価しています。ILCではこの空洞を計9000個製造することになります」と説明しました。

次に先端加速器試験施設(ATF)を視察しました。ここでは「ナノビーム」と呼ばれる、ビームを極限まで絞る技術の確立を目指しています。ILCの衝突点でこれを実現することで、高い実験効率を達成できます。ILCでの衝突ビームをつくる技術の確立を目指しています。ILCでの実験効率に直結するこれも重要な技術です。すでに髪の毛の太さの2000分の1程度という41nm(1nmは100万分の1mm)のビームを達成しています。これはすでに世界記録ですが、ILCではさらに絞るほかビームの衝突を安定して維持する技術の開発も進められています。

先端加速器試験施設(ATF)では、照沼信浩教授(後ろ姿)からビームを絞る技術の説明を受けました

照沼信浩教授は「ナノビームは、向きがそろった高品質のビームと最終収束ビームラインを用いることで実現します。そのためのダンピングリングと最終収束ビームラインの施設を有するのは唯一KEKだけであり、世界中から研究者が集まって共同で技術開発を進めています」と話しました。

最後に、実際に物理実験が行われているSuperKEKB加速器とBelle II測定器を視察しました。光速近くまで加速した電子と陽電子を衝突させて、宇宙創成の謎に迫るという特徴は共通していますが、非常に高いエネルギーでの衝突を目指すILCと違い、衝突頻度を高めて非常にまれな現象を見つけ出すことを目指しています。ILCが実現した場合、補い合う関係になる実験装置です。

筑波実験棟地下にあるBelle II測定器も視察しました

今回の視察のタイミングは、約1年半に渡る長期の改造工事が終わる直前に当たり、実験中は見ることができない衝突点付近の粒子検出器などを間近に見ることができました。後田裕教授が「2019年からデータを取り始め、新しい物理学の探索をしています」と説明しました。

説明に対して多数の質問が出るなど、議連メンバーは技術開発や研究に強い関心を持っていることが伺われました。
その後、東京大学素粒子物理国際研究センター(ICEPP)と総合研究大学院大学(総研大)の若手研究者(いずれも大学院生)6人を交えて意見交換をしました。

大野事務局長から「みなさんの将来の野望を教えてほしい」との直球の質問があり、ATFでの研究に加わっている総研大の阿部優樹さんは「装置としての加速器の魅力を感じている。自分がかかわっている装置が実現できるといい」と話しました。

「ILCをどうわかりやすく伝えるか」の議論も活発に交わされました。

奥野議員から「ILCをあなたならどう説明しますか? 良い案があれば、それを使って(私も)説明に使ってみたいです」との問いかけがあり、ICEPPの増田隆之介さんは「新しい物理学の足掛かりやすべての物理学の根底にあるものをつかむもの」という説明をしました。

塩谷会長からの「国際熱核融合実験炉(ITER)は、『地上に太陽を』というわかりやすいキャッチフレーズを使って世の中にその存在を説明したが、ILCについても考えてみてほしい」との問いかけがありました。それに対して、趣味で小説を書くというICEPPの山下恵理香さんは「ビッグバンまでさかのぼろう!」とキャッチフレーズを提案しました。

若手研究者6人(右列)との意見交換の様子

一方で「結構な割合で『素粒子物理って、何、それ』と言われることが多い」との声も出ました。奥野議員が「抱え込まないでどんどん発信すれば、他の人がキャッチしてくれるから」と励ましていました。

最後に塩谷会長が「現場を見て改めてILCの重要性を感じた。日本の研究力を世界に示すべく頑張ってほしい」と若手研究者にエールを送り、視察を終えました。