国際リニアコライダーの技術開発を推進 「ITNインフォメーション会議」に28研究機関が参加

国際リニアコライダー(ILC)の実現を目指し、技術開発を国際的に進めるあらたな枠組み「ILCテクノロジーネットワーク(ITN)」の会議が、ジュネーブにある欧州合同原子核研究機関(CERN)で10月16日〜17日に開催されました。オンラインも含め、10カ国の28研究機関から68名の参加がありました。

今回の会議は、今後の計画や役割分担などを確認するとともに、ITNに関する情報共有・交換を行うことで、その活動を確立、拡大することを目的に「ITNインフォメーション会議」として開催されました。

ITNは、KEKとILC国際推進チーム(IDT)によって提案されたILCの加速器技術開発の重点事項(ワークパッケージ)の開発をグローバルに進める枠組みで、KEKと参加研究機関間の二機関協力協定により構築されます。今年7月、KEKとCERNは同枠組みに関する協定に署名しました。CERNは欧州の他研究機関のハブとしての役割を担っており、現時点で参加の意向を表明している機関は欧州の研究所が多いことから、今回の会議はCERNを会場として開催されたものです。

開会の挨拶をする山内正則KEK機構長

会議は山内正則KEK機構長による挨拶で開会。冒頭、加速器開発の活動をとりまとめている道園真一郎KEK教授により、ワークパッケージの説明が提示されました。その後、超伝導加速空洞、電子・陽電子源、ナノビームの三つの重要技術分野に関する発表が行われ、各分野の現状と展望への理解が深められました。

続いて、2日間にわたり、米国、欧州、オーストラリア、韓国、日本の21研究機関*の所長や加速器部長などからプレゼンテーションが行われました。すでに枠組みに参加している研究所からは進捗状況が、参加を検討している研究所からはそれぞれの専門分野と関心のある技術項目が発表されました。

会議中の様子

ほぼ全てのワークパッケージにいずれかの研究所から関心が表明されました。今回の会議をKEKと共催したIDTの中田達也議長は「21もの研究機関が、具体的な技術項目を挙げてITNへの参加に興味を示してくれたことは、非常に大きな成果だと考えています」と述べ、今後の活動の進展に期待をよせています。

*ブルックヘブン国立研究所、トーマス・ジェファーソン国立加速器機関、アルゴンヌ国立研究所、コーネル大学、フェルミ国立加速器研究所、ローレンス・バークレー国立研究所、SLAC国立加速器研究所(以上米国)、加TRIUMF、CERN、イタリア国立核物理研究所(INFN)、英ジョン・アダムズ研究所、英STFC ASTec研究所、ドイツ電子シンクロトロン研究所、スペインCIEMAT研究所、スペインIFIC研究所、仏サクレー研究所(CEA)、仏IJC研究所、豪シンクロトロン、高麗大学、浦項加速器研究所、KEK

・国際リニアコライダー(International Linear Collider: ILC)
ILCは、国際協力で実現を目指す次世代の直線型衝突型加速器です。全長約20キロメートルの地下トンネルに設置した超伝導加速器で電子と陽電子を衝突させ、宇宙の始まりから1兆分の1秒後を再現。そこで起きる現象を徹底的に調べ、未知の物理法則を解明し、自然の理解を新たな段階へと進めることが目的です。素粒子物理学の最重要課題のひとつは、欧州合同原子核研究機関(CERN)のLHC加速器で2012年に発見されたヒッグス粒子の性質解明であり、ヒッグス粒子を大量生成して詳しく調べる「ヒッグス・ファクトリー」の早期実現の重要性が、世界の研究者の共通認識となっています。ILCはもっとも成熟したヒッグス・ファクトリー計画として世界から期待されています。KEKではILC実現に向けさまざまな取り組みを行っています。

・ILC国際推進チーム(ILC International Development Team: IDT)
IDTは国際将来加速器委員会(ICFA)が設立した、ILCの準備段階への移行を促進するための国際研究者組織です。2021年6月にIDTが公表したILC準備研究所の設立の提案など、ILCプロジェクトの課題に対する文科省有識者会議の議論のまとめを受け、KEKとともにITNの設立に向けた調整を行いました。