【KEKのひと #31】水素で世界は変えられるか 池田一貴(いけだ・かずたか)さん

水素研究一筋の池田一貴さん
元素表で最初に出てくる水素。シンプルなつくりで、変幻自在のこの元素は、世界を変える可能性を秘めているといいます。水素に魅了され、研究を続ける物質構造科学研究所 特別准教授池田一貴さんに聞きました。

―どのような研究を?

「水素が物質中のどこにいるのか、中性子を使って探る研究をしています。物質の中での水素のふるまいとその物質の機能が深く関連する物質の構造を調べることで、『水素エネルギー社会』の到来を間接的に支える研究をしています」

―KEKにはいつから?

「KEKは8年になります。その前は東北大に6年いて、材料研究をしていました。水素化物など、材料を作る方ですね。その前は電池メーカーで6年。ニッケル水素電池の開発をしていました。トヨタ自動車のハイブリッド自動車『プリウス』の初代モデルに搭載されていたものです」

―水素一筋ですね。

「水素は、陽子と電子が一つずつという最もシンプルな構成の元素ですが、そこから電子一つが抜けると陽子一つとなり、半径はほぼゼロになります。反対に、電子が一つ加わると、電子は広がりその半径は2.5倍になります。状態によって、半径で十数万倍、体積では数千兆倍にも変わる。含まれている材料によってもまた、その状態が変わるので、おもしろいです。シンプルで、不思議な存在です」

―水素に興味を持ったのはいつごろですか?

「広島大学の学部4年生の時、研究室の選択をするのに水素の研究をされていた教授が『水素が世界を変える』と仰っていたお話がとてもおもしろく、その研究室に入りました。その後のメーカーでの開発も面白かったですが、物質の構造について明らかにする探求の道がさらに興味深かったのと、自分に向いていると感じて研究の道に進みました」

―水素の研究の難しいところはどこですか

「中性子が水素に当たって散乱し、その信号を解析することで原子の並び方がわかるのですが、中性子は陽子と同じくらいの重さなので、水素にぶつけると水素自体が動いてしまう。また水素は近くにある金属とつながり、そのつながり方も千差万別で、それを調べるのも難しいです」

―”水素が世界を変える”は実現しそうですか?

「まだ課題は多いですが、水から水素を取り出すのが簡単にできるようになれば、環境に負荷をかけない代替エネルギーとして、世界のエネルギー構造を変えるのではと思います」

―ありがとうございました。

(聞き手 広報室・牧野佐千子)


◆池田さんは、6月30日(土)開催のKEK公開講座「J-PARCの中性子で観るエネルギー関連材料」で講師として登壇します


KEKのひと

研究者、ユーザー、技術者、事務系職員など、KEKに関わる人たちにインタビューし、その分野に興味を持ったきっかけや日々の生活のことなど、一般記事などでは伝えられない素顔に迫る企画連載です