世界初の継ぎ目なし加速器心臓部の製造に成功

〜次世代加速器のコストダウンに貢献~

空洞の成形に初めて成功したときの喜びの笑顔
左から、日本ニューロンの西森一喜さん、西勇也さん、KEKの山中将教授

高エネルギー加速器研究機構
日本ニューロン株式会社

Question

超伝導加速器は省エネというメリットがある。しかし、心臓部と言える「加速空洞」をレアメタル(ニオブ)で作るため初期コストが高い。性能を上げながらコストを低く抑える製造方法はないだろうか。

Findings

銅で作った空洞の内面にニオブをコーティングして超伝導を発現させ、廉価な超伝導空洞を実現する技術が海外にある。この技術をいかすために、従来より高性能な継ぎ目なしの空洞を作ることに挑戦し、技術を確立した。

Meaning

採用した金属加工法「液圧成形」は油圧部品や自動車部品の製造に広く利用されている技術だが、今回確立した空洞製造法は、これを応用し銅の性能を極限近くまで引き出したものである。生産性が抜群によく、劇的なコストダウンが期待できる。

概要

電気抵抗がほぼゼロの状態で粒子を加速できる超伝導加速空洞*1 を利用した加速器が、近年、世界各地に建設され、各種の新しい実験を可能にしています。超伝導加速空洞は、消費電力は低いのですが、材料にレアメタルであるニオブ*2 を使うため初期コストは高くなります。
そこで、銅で空洞本体を製作し、内面にニオブをコーティングして超伝導を発現させ、廉価な超伝導空洞を実現する研究が盛んに行われています。加速空洞の内面は滑らかであることが求められるため、コーティングの下地には継ぎ目のない空洞が理想的ですが、まだ誰も製造に成功していませんでした。
今回、塑性加工法の一つである液圧成形*3 を用いて、1本のシームレス(継ぎ目なし)銅パイプから、一体型のフルシームレス空洞を製造することに世界で初めて成功しました。

*1.超伝導加速空洞
加速空洞とは金属製の空洞内部に高周波を印加し、マイクロ波が作る電場で電子や陽電子などの荷電粒子を加速する加速管で、超伝導と常伝導に分類できる。超伝導加速空洞は冷媒(液体ヘリウム)により、空洞を極低温に冷却して超伝導化することで、常伝導加速空洞に比べて高周波損失を10~100 万分の1にできるため、主として高加速電界かつ連続波で運転する加速器に用いられる。材料の金属として、超伝導加速空洞ではニオブ、常伝導加速空洞では銅が用いられる。

*2.ニオブ
原子番号41の金属元素。元素記号はNb。非常に高価なレアメタルである。純度99.9999%以上の純ニオブが超伝導加速空洞の材料として用いられる。

*3.液圧成形
パイプの外側に金型を配置し、パイプ内に高い液圧を加えることによりパイプを膨張させて成型する加工方法。バルジ加工ともいう。製管や自動車部品の製造に用いられる。加工条件は内圧とパイプの押し込み量である。

成形の過程が分かる動画(57秒)
YouTube KEKチャンネル「世界初の継ぎ目なし加速器心臓部の製造に成功」

研究グループ

この成果は高エネルギー加速器研究機構(KEK)共通基盤研究施設 機械工学センターの山中将 教授と日本ニューロン株式会社の共同研究によるものです。日本ニューロンは京都府にある伸縮管やダンバーの製造を行う会社で、大型の液圧成形機を有し液圧成形に関する多くの知見を有します。
2015年からニオブ製空洞の開発を目指して共同研究を開始しましたが中断があり、2021年に銅製液圧成形空洞の開発を目指した共同研究を再開し、今回の成功に至りました。

研究者からひとこと

KEKの山中です。2011年にKEKに着任し、この研究を引き継ぎました。
毎月のように日本ニューロンさんを訪問し、液圧成形機を借りて成形テストを繰り返しました。コロナ禍で思うように実験ができない時期もありましたが、日本ニューロンさんの若い技術者と一緒に実験と解析を行い、開発を成功させました。
世界中の加速器の研究所にこの空洞を提供して、同じ土俵でコーティングの技を競ってもらうのが夢です。

お問い合わせ先

高エネルギー加速器研究機構(KEK)広報室
Tel : 029-879-6047
e-mail : press@kek.jp

詳しくは  プレスリリース  をご参照ください。

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