進化の過程で失った機能を復活させ、回転型分子モーターの加速に成功

~タンパク質複合体の協奏的機能を制御する新手法~

自然科学研究機構 分子科学研究所
自然科学研究機構 生命創成探究センター
高エネルギー加速器研究機構
科学技術振興機構(JST)

概要

多くのタンパク質複合体が生体内で重要な働きをしており、その複雑で協奏的な機能は、「アロステリー」と呼ばれる分子機構をもとに制御されています。新しいアロステリーをタンパク質複合体に付与することができれば、機能を自在に制御することが可能となります。この研究は、アロステリーの一般的な理解を進展させるだけでなく、工業・農業・医療への貢献も期待されます。
自然科学研究機構分子科学研究所(協奏分子システム研究センター)/生命創成探究センターの小杉貴洋助教、古賀信康教授(現所属:大阪大学・蛋白質研究所)は、同じく自然科学研究機構分子科学研究所(生命・錯体分子科学研究領域)の飯田龍也大学院生(総合研究大学院大学、現所属:理化学研究所)、飯野亮太教授らの研究チームおよび高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の田辺幹雄特任准教授らと共同で、計算機を使ったタンパク質設計により回転型モータータンパク質V1(V1-ATPase)に新しいアロステリック部位を設計することで、V1の回転速度を速くすることに成功しました。このようにタンパク質複合体にアロステリーを付与することができたのは世界で初めてのことです。
本研究ではKEKフォトンファクトリーのBL-1AでX線結晶構造解析の回折実験が行われました。

本研究の成果は、「Nature Chemistry」誌に2023年7月7日(金)0時(日本時間)に公開されました。

本研究成果のポイント

  • タンパク質複合体の機能を制御するメカニズムであるアロステリーを設計する新手法「進化の過程で失った機能を復活させる」を考案し、回転型分子モーターV1を対象として実証した。
  • 計算機を用いたタンパク質設計により、回転型分子モーターV1が失ったATP結合能を復活させて新規なアロステリーを人工的に付与し、回転速度を速くすることに世界で初めて成功した。
  • アロステリーの分子機構の理解を進展させるだけでなく、工業・農業・医療分野で役立つタンパク質の創出への貢献も期待される。

お問い合わせ先

高エネルギー加速器研究機構(KEK)広報室
Tel : 029-879-6047
e-mail : press@kek.jp

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