次世代太陽電池材料が高効率性を発揮するメカニズムを解明 -ミュオンによる観測・評価法を活用、 より高効率で低コストの材料開発へ期待-

代表的な有機無機ハイブリッドペロブスカイトであるCH3NH3PbI3の結晶構造。鉛とヨウ素でできたジャングルジム中にメチルアンモニウム(CH3NH3)が存在し回転運動している。

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
J-PARCセンター

概要

高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 ミュオン科学研究系の幸田章宏准教授、門野良典教授、平石雅俊特任助教、岡部博孝特任助教、ヴァージニア大学のKatelyn A. Dagnall博士課程学生、Joshua J. Choi准教授、Seung-Hun Lee教授らの研究グループは、大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)の汎用µSR実験装置(ARTEMIS)を用いて、次世代太陽電池材料として有望視される有機無機ハイブリッドペロブスカイト系化合物の典型物質であるヨウ化鉛メチルアンモニウム(CH3NH3PbI3)について、その高い光電変換効率と結晶中の有機分子の運動との間に明確な相関があることを明らかにしました。

今回、研究グループはCH3NH3PbI3結晶中のジャングルジム構造に閉じ込められた有機分子の運動を、汎用µSR実験装置を用いて観測しました。
観測の結果、本物質では、温度上昇に伴い、熱励起により有機分子の回転が速くなると、光電変換効率の起源とされる電荷キャリア寿命が短くなることが分かりました。有機分子の自由な回転運動の速さが適度に抑制されていることが、本物質の長い電荷キャリア寿命に重要であることが示されました。

本成果は固体内分子の運動の観測にµSRが活用できることを初めて実証した例であり、この手法が高効率で安価な次世代太陽電池や光情報処理デバイスの開発に貢献すると期待されます。

この研究成果は、米国科学雑誌Proceedings of National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要、1月25日付)にてオンライン公開されました。

本研究成果のポイント

○高性能かつ安価な次世代太陽電池材料として有望なヨウ化鉛メチルアンモニウム(CH3NH3PbI3)について、高効率性と結晶中のジャングルジム構造に閉じ込められた有機分子の回転運動との相関を発見。
○固体内の有機分子の運動を観測する新手法として、ミュオンを用いた観測法の有効性を実証。
○次世代太陽電池や光情報処理デバイスのさらなる性能向上につながると期待。

詳しくは  プレスリリース  をご参照ください。