【KEKエッセイ #51】 KEK構内にいるキツツキ

birdwatching

梅雨入り間近の6月上旬、理論センター長のHさんと理論秘書のI岡さんとO野さんから、「キツツキが木をつついているような音がする」との情報がもたらされました。Hさんが録音した、”その音”も聞かせていただきました。小刻みに震えるような、そして共鳴するような、なんとも不思議な音です。これまで知っているどれとも異なりました。私は本格的なバードウォッチャーではないのですが、普段、少年時代からの”生き物好き”を表明していることもあり、たいへん幸せなことにこの種の”KEKに生息する生物の謎”の情報が多くもたらされます。すでに”鳥好き”で知られるIさんのところにも相談が行っているようでした。これまでも、”所員を襲ったキイロスズメバチの巣”、”構内のアオダイショウの出現パターン”、”ハクビシンのフン”、”干上がる池のギンヤンマのヤゴのエサとは”、”毎冬のジョウビタキの縄張りの変遷”、”ガビチョウ現わる”、などの謎の解明のために出動してきた”実績?”もあり、問題解明への期待も高まっているようです。これらKEKの豊かな自然に暮らす生物に関する他のエピソードは、別の機会に紹介したいと思います。もちろん、KEKの所員の中には、もっと本格的なバードウォッチャーの方々がいらっしゃるでしょうが、ここは素人バードウォッチャーのとある体験におつきあいいただきたいと存じます。(理論センター 郡和範)

 

 

早速、コロナ禍の運動不足解消も兼ねて仕事後の夕方に捜索をはじめました。夕刻とはいえ、初夏の日差しは散策には十分すぎるほどです。研究本館から職員会館に向かう途中、青葉で覆われた桜並木を通り過ぎると、「ギィー、ギィー、ギィー」という濁った声が聞こえました。これはお馴染み、コゲラの鳴き声です。コゲラは日本最小のキツツキで、スズメよりちょっと大きな体長の鳥です。KEK構内やつくば一帯では、冬にコゲラと同じぐらいの大きさの鳥であるシジュウカラ、エナガなどのカラ類の群れに、メジロなども交えた10羽から数10羽程度の混群(こんぐん)の一員として紛れているのを目にします。普段は主に幹の隙間にいる虫をとらえて食べていて、小枝や葉にいる虫を探している混群の他のメンバーとは競合しないようで、小柄ながらたいへんたくましい様子です。ちなみにコガラというカラ類もいますので、名前自体がたいへん紛らわしいです。

 

その桜の木の幹に垂直にとまり、巧みにジグザグに激しく翔け登りながら、しきりに虫などを探していました。その途中、なんと桜の枝にとまったかと思うと、すぐに桜の実(サクランボではない)をつつき始めたのです(写真1)。Iさんによると、桜の実を食べることはすでに知られているとのこと。私はこれまでコゲラは虫のみが主食だと盲目的に信じていたので、個人的にたいへんなインパクトでした。この日は、このようにコゲラを小一時間ほど追跡していたのですが、木をつついて音を出す行為(ドラミング)は全く行いませんでした。子供の頃によくコゲラに出会っていましたが、コゲラのドラミングはまだ聞いたことがありません。

 

写真1.   桜の実をつつくコゲラ。ギィーっという鳴き声を上げて、ジグザクと忙しく幹を登って行きました。職員会館前の桜並木にて。2021年6月2日 郡和範撮影。

写真1.   桜の実をつつくコゲラ。ギィーっという鳴き声を上げて、ジグザクと忙しく幹を登って行きました。職員会館前の桜並木にて。2021年6月2日 郡和範撮影。

 

数日経ち、さらに“その音”を聞いたという報告が続々と寄せられました。現場を抑えられないという焦る気持ちで日々を過ごすうち、もしかしたらコゲラは犯人ではないかもしれないと思うようになっていました。まだ構内では見たことないが、もっと大きなアカゲラあたりかなとIさんと想像をめぐらせていたのです。その矢先の6月5日土曜日、臨時の所用でオフィスに来る途中、研究本館西の階段で、とうとうそれに出くわしました。

 

総勢20羽ほどのコゲラとエナガの見事な混群が、研究本館西の松の木に移ってきたのです。まず初夏でも、これほど大きな混群をつくることに驚いたのと同時に、その距離がびっくりするほど近いのです。研究本館西の階段踊り場からは、その松の枝は手を伸ばせば届くほどの位置にあります。その距離の近さにもかかわらず人を怖がることなく、その枝と枝の間を飛び交っています。その群れに丸ごと包まれているかのような錯覚を起こすほどの体験でした。

 

そして、何羽かのコゲラが激しく木をつつき始めました。それはキメ細かく小気味良い乾いた音の連続で、またその余韻が響きわたる見事なドラミングでした。あまりに集中していたせいか周りの景色が見えなくなり、コゲラに吸い込まれていきそうな錯覚に陥ります。よくみると、木の皮を剥がしながら、小さな幼虫を巧みにつつき出しているのが見えます。どれだけ経ったのか時間を忘れて見入っていました。

 

写真2.  研究本館西の松の木に来たコゲラ。盛んに木をつつき、ドラミングを行っていました。エナガと20羽ほどの混群を形成していました。奥に見えるのは4号館。2021年6月5日 郡和範撮影。

写真2.  研究本館西の松の木に来たコゲラ。盛んに木をつつき、ドラミングを行っていました。エナガと20羽ほどの混群を形成していました。奥に見えるのは4号館。2021年6月5日 郡和範撮影。

 

その際、とっさに撮影した動画から落とした写真を紹介します(写真2)。動画を同僚たちに公開すると、コゲラとエナガの可愛らしさを初めて知ったという、O石さんとN田さんなどからたいへんな反響がありました。そう、カラ類の混群を構成する鳥たちって小さくて本当に可愛いいんですよね。鳥に詳しいか詳しくないかにかかわらず、この種の感情は誰とでも共有できる大事な価値観からくるものだと改めて感じさせられます。物理学上の大発見も、誰とでも共有できる普遍的な価値があるのですが、それを一般の方にお伝えする方法の工夫が必要だと考えさせられます。コロナ禍で外出が厳しく制限される中、KEK構内の自然に囲まれて仕事ができる喜びをかみしめた、エキサイティングな1週間でした。

 

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