令和3年度物構研コロキウム 第5回「ミュオンは超伝導の研究にどう役立ってきてどう役立っていくか」

開催日時

2021/09/13 16:15 – 17:15

開催場所

オンライン(Zoomミーティング)

講演者

足立 匡 教授(上智大学 理工学部 機能創造理工学科)

言語

日本語

お問い合わせ

naomi.nagata@kek.jp


概要

(物構研コロキウム第5回のご聴講をご希望の方は上記のウェブサイトから参加登録をお願いいたします。受付確認メールにて、Zoom接続情報をお送りいたします。)

要旨:
物性物理学の研究に欠かせない量子ビームの一つであるミュオン。我々、超伝導の研究者にとってなくてはならないプローブです。本コロキウムでは、ミュオンが超伝導研究の進展にどのように貢献してきたか、これからどう役立っていきそうかについて、我々の研究結果も含めてお話しします。トピックスを以下に示します。

【ミュオンは超伝導体の磁気的な情報を与えてくれる】

銅酸化物、鉄系の高温超伝導の研究では、物性相図をいち早く決定してくれました。また、どちらの超伝導体も反強磁性体にキャリアをドープすると超伝導が発現するので、超伝導とスピンゆらぎの関連の研究にも役立ちました。キャリアを過剰にドープすると現れる強磁性ゆらぎ[1]の研究にも威力を発揮しています。最近ホットなNi酸化物超伝導に関しても、母物質での短距離磁気秩序の観測などの成果[2]も得られています。

【ミュオンは超伝導の磁場侵入長を教えてくれる】

超伝導電子密度や超伝導電子対の対称性に関わる磁場侵入長、ミュオンはその絶対値まで議論できるほぼ唯一のプローブです。銅酸化物において、超伝導電子密度と超伝導転移温度が比例する、過剰ドープ領域では不均一な超伝導状態が実現している[3]などの重要な知見が得られました。カイラル超伝導に関しては、電子の軌道運動による自発磁化を検出するとともに電子対の対称性を決定して、特異な超伝導状態の議論に貢献しています[4]。

【ミュオンは薄膜の磁性と超伝導についても教えてくれる】

低エネルギーミュオンを用いると薄膜試料の磁性と超伝導について調べることができます。T’型銅酸化物におけるノンドープ超伝導[5]、鉄カルコゲナイド超伝導体における磁性、超伝導、電子ネマティック状態の関連[6]などのトピックがあります。

【今後のミュオンと超伝導】

  J-PARC MLFの超低速ミュオン、最表面1ナノメートルの状態や界面の状態を調べられるプローブで、まもなく実験が開始されます。絶縁体と金属の2つの銅酸化物の界面で現れる超伝導[7]などのメカニズムに迫れます。また、超高圧力下での水素化物室温超伝導に関しては、鍵を握っていると予想されている水素の状態をJ-PARCの大強度ミュオンビームを用いた極限環境下での実験から明らかにできるかもしれません。

[1] K. Kurashima et al., Phys. Rev. Lett. 121, 057002 (2018). [5] K. M. Kojima et al., Phys. Rev. B 89, 180508(R) (2014).

[2] T. Adachi, T. Takamatsu et al., in preparation.                       [6] F. Nabeshima et al., Phys. Rev. B 103, 184504 (2021).

[3] Y. J. Uemura, Solid State Commun. 126, 23 (2003).            [7] A. Gozar et al., Nature 445, 782 (2008).

[4] T. Adachi, K. Kudo et al., in preparation.