Belle IIが世界最大のY(4S)のデータを蓄積

より精密な測定で標準模型を超える新物理の探求へ

Mission

KEKの基幹プロジェクトであるSuperKEKB加速器におけるBelle II実験は、標準模型を超える新しい物理法則を探るために、電子・陽電子対消滅によるΥ(4S) (ウプシロン-4S) 共鳴での 膨大な数のB中間子のデータの蓄積します。そのために、さまざまな課題を解決して、世界最高性能を絶えず追求してゆきます。

Achievements

加速器の精密な運転調整を着実に進め、前身であるKEKBにおけるBelle実験よりも大幅に高いルミノシティでの安定した運転を実現しました。このことにより、B中間子崩壊の研究に必要なΥ(4S) 共鳴エネルギーでのデータセットについて、Belle実験のデータ量を超える世界最大のデータを蓄積しました。

Meaning

世界最大のデータセットを手に入れたことで、Belle IIは新たな時代への一歩を踏み出しました。電子・陽電子対消滅の強みである「クリーンさ」を最大限に活かし、より精密な測定を行い、標準模型を超える新物理の探求を進めます。

KEK の Belle II 実験が蓄積するΥ(4S)のデータがBelleを超えて世界最大に!Υ(4S)共鳴エネルギーでの電子・陽電子対消滅から得られるB中間子データのクリーンさを最大限に活かし、標準模型を超える新物理の探求を次の段階へと進めます。

Belle II測定器の写真 © Belle II Collaboration/KEK

Belle II実験について

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)つくばキャンパスの基幹プロジェクトである「SuperKEKB加速器」を用いた「Belle II実験」は、標準模型を超える新しい物理法則を探る大型加速器実験です。Belle II実験グループは、28の国と地域から集まった1200人以上のメンバーで構成されています。

 Belle II実験の物理プログラムは、重いクォークやレプトンの崩壊を用いた精密な「フレーバー物理学」と呼ばれる研究、特に極めて稀で実験的に困難なプロセスを通じた「標準模型を超える新しい物理」の探索に焦点を当てています。高精度な測定結果と理論的な予測を比較することで、Belle IIは現在の理論を超えた未知の粒子や力の兆候を明らかにすることを目指しています。

 物理プログラムの中で、B中間子の崩壊におけるCP対称性の破れやレプトン普遍性の破れ、稀な現象の精密測定が特に重要な位置を占めます。SuperKEKBでは、電子と陽電子を10.58 GeV(ギガ電子ボルト)の重心系エネルギーで衝突させて「Υ(4S)(ウプシロン4S)」という状態を生成し、それがB中間子・反B中間子対へ崩壊、さらにそのB中間子対が崩壊する事象のデータを記録します。この研究を行うためには、膨大な数のB中間子・反B中間子の実験データの蓄積が必要になります。

 素粒子の衝突が起きる確率は「断面積」と呼ばれる指標で表され、Υ(4S)でのB中間子生成の断面積は約1nb(ナノバーン、1 nb = 1,000,000 fb = 10-33cm2)です。「瞬間ルミノシティ」 (あるいは単に「ルミノシティ」) は衝突性能を表す指標で、これに断面積を掛けると単位時間(1秒)あたりの事象数になります。また、「積分ルミノシティ」はルミノシティを積算したもので、積分ルミノシティに断面積を掛けると事象数になる、データ量を表す指標です。

 瞬間ルミノシティが高いほど、より早く積分ルミノシティを増やすことができます。そして、積分ルミノシティが多く、したがって事象数が多いほど、物理学者はより稀な現象の研究、より精密な測定を行うことができるようになります。

 前身であるBelle実験は、KEKB加速器を用いて1999年から2010年までデータ収集運転を行い、Υ(4S)共鳴で当時の世界最大となる実験データを、積分ルミノシティとして711 fb-1 (インバース・フェムトバーン) 蓄積し、7.72億個のB中間子対のデータを記録しました。結果、Belle実験は標準模型におけるクォークセクターのCP対称性の破れの記述を確立する上で中心的な役割を果たし、フレーバー物理における大きなブレイクスルーをもたらすとともに、小林誠氏と益川敏英氏の2008年ノーベル物理学賞受賞に貢献しました。

 SuperKEKB加速器は、前身であるKEKBと同様に、電子と陽電子のビームをを線形加速器(LINAC)で加速し、それぞれ別の蓄積リングに入射し、Belle II測定器の中心で衝突させます。その上で、衝突点におけるビームのサイズを極限まで小さくすることで格段に高い衝突頻度を得る、画期的な「ナノビーム」衝突方式によって世界最高のルミノシティを達成するように設計されています。SuperKEKB加速器とBelle II測定器は、2019年から、高い積分ルミノシティの取得と物理成果の創出を目指し運転してきました。

今回の成果

 Belle IIが蓄積するΥ(4S)でのB中間子の実験データが、5月17日にBelle実験を上回り、世界最大となりました。6月4日現在、Υ(4S)での積分ルミノシティで757 fb-1に達しています。Υ(4S)とは異なるエネルギーの10.52 GeVで収集した86 fb-1のデータおよび10.75 GeV近傍で収集した19 fb-1のデータを加えると、総積分ルミノシティでは862 fb−1であり、さらに現在も増え続けています。

 未だかつてない量の積分ルミノシティを蓄積するために、SuperKEKBチームとBelle II実験グループは協力し、より精密な加速器の運転調整を地道に進めてきました。高い積分ルミノシティのためには、高い瞬間ルミノシティで、安定に加速器を運転することが不可欠です。瞬間ルミノシティを上げるためには、線形加速器で生成した高い強度の電子・陽電子ビームを高い効率で蓄積リングへ供給し、蓄積リング内のビームを高精度に調整し制御することが必要です。安定性については、蓄積ビームの一部がほぼ前兆なく突発的に失われる現象によって大きく制限されてきました。こうしたこれまで未知であった課題をかなり解消し、瞬間ルミノシティの世界新記録近傍での持続的な運転が可能になりました。

 瞬間ルミノシティの世界新記録としては、今年の3月19日に、Belleの記録の約2.5倍にあたる5.2×1034 cm-2s-1の記録を達成しました (cm-2s-1は1平方センチメートルの断面積を持つ反応の1秒間あたりの衝突数を意味し、瞬間ルミノシティを表す単位)。また、今年に入ってからは、Belleの最も良かった年と比べて、平均して約3倍の速度でデータを蓄積できています。

今後の展望

 世界最大のΥ(4S)のB中間子の実験データを手に入れたことで、Belle IIは新たな時代へ突入しました。現在のデータ収集期間までに蓄積されたデータを、今後詳細に解析してゆくことにより、新しい物理成果につながる探索を次々と実行できると期待できます。

 Belle II実験では、電子・陽電子の対消滅からB中間子以外の粒子が同時に生成されず、B中間子の初期状態が厳密に決定できる「クリーンな測定」が可能です。このことにより、例えば、ニュートリノなどのBelle IIで測定できない粒子を含む崩壊過程の効率のよい測定やB中間子崩壊過程の理論的不定性の少ない包括的な測定が可能になります。Belle IIの強みは、競争相手である欧州合同原子核研究機関(CERN)のハドロン衝突型のLHC加速器の各実験が非常に高い粒子生成率のため特定の崩壊過程に対して卓越した感度を誇っていることと相補関係にあります。

 現在進行中のデータ収集は6月末まで続く予定で、メンテナンスなどをはさみ秋以降に再開します。Belle II実験ではまもなく総積分ルミノシティ1 ab−1 (1000 fb-1)という次のマイルストーンを迎えます。

 SuperKEKB加速器とBelle II実験は、最終的にBelle実験の約50倍に相当する50 ab-1 の積分ルミノシティを蓄積することを目標としています。目標達成のために、2032年頃に予定されている加速器および測定器双方のアップグレードを含め、加速器と検出器の性能を継続的に進化させていきます。

KEKつくばキャンパスにおけるSuperKEKB加速器の概略図
© Belle II Collaboration/KEK
電子陽電子対消滅におけるΥ(4S)共鳴で生成されるB中間子対のイメージ
© KEK
Belle IIにおけるΥ(4S)および全データセットの蓄積量の推移
© Belle II Collaboration/KEK
世界最大のΥ(4S)データセット蓄積を喜ぶSuperKEKBとBelle IIの研究者たち
© Belle II Collaboration/KEK

研究者からひとこと

宇野健太助教、KEK (Belle II 運転コーディネーター)

Belleのデータセットに到達し、そして今それを追い抜いたことは、私たち多くのメンバーにとって感慨深く、重要な瞬間です。これはSuperKEKBとBelle IIの強固な協力関係、そして加速器および検出器のエキスパートたちによる2019年から始まる長年の継続的な努力の賜物です。これまでの長い道のりで、高いルミノシティでの運転がいかに厳しい要求であるかが次々と浮き彫りになり、急速に変化する状況に対応するために多くの人々が24時間体制で尽力してきました。それでも、加速器と測定器の双方の性能を向上させ続けながら、このマイルストーンに到達できたことは、コラボレーションとして非常に誇りに思える成果です。

ソーレン・プレル教授、米国アイオワ州立大
(Prof. Soeren Prell、Belle II 物理コーディネーター)

データセットがBelleの規模を超えたことで、Belle IIは精密測定と新しい物理の探索における『新しい時代』へと突入します。この実験は、標準模型を超える物理の兆候を明らかにする可能性のある、極めて稀な現象を研究するためのユニークなポジションにあります。

フロリアン・ベルンロフナー教授、ドイツ・ボン大学
(Prof. Florian Bernlochner、Belle II スポークスパーソン)

このマイルストーンは象徴的な転換点であり、新しい精密測定の時代の始まりです。Belleはフレーバー物理学を一変させ、偉大な科学的遺産を確立しました。BelleのΥ(4S)データセットを上回ることは、一つの章の終わりであり、新たな章の始まりを意味します。Belle IIは、単にBelleの成果を再現するためだけでなく、大幅に大規模なデータセットと前例のない精度によって、その遥か先へと突き進むために設計されました。私たちが今、この領域に足を踏み入れたことは、コラボレーションにとっても、この研究分野にとっても大きな瞬間です。

お問い合わせ先

高エネルギー加速器研究機構(KEK)広報室
Tel : 029-879-6047
e-mail : press@kek.jp

<研究内容に関すること>
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
素粒子原子核研究所 教授 中尾 幹彦
Tel : 029-864-5200 ext. 4691
e-mail : mikihiko.nakao@kek.jp