大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
国立研究開発法人 理化学研究所
本研究成果のストーリー
Question
宇宙で最も頻繁に起こっている爆発的天体現象のI型X線バーストの主なエネルギー源で、元素合成過程の一つである速い陽子捕獲過程がどのように終わるかは原子核データの不足から未解明でした。
Findings
本研究では、速い陽子捕獲過程の終端の候補であるジルコニウム-ニオブ(ZrNb)・サイクルと呼ばれる閉じた反応サイクルでキーとなる短寿命不安定原子核モリブデン-84の精密質量測定を行い、ZrNb・サイクルが一般的なI型X線バーストの条件下では成立しないことを世界で初めて実験的に確かめました。
Meaning
この研究では速い陽子捕獲過程がどのように終わるか、特に閉じた反応サイクルの存在に関して明確な結論を与えています。これはX線バーストのメカニズムの解明や元素の起源に関する議論を大きく前進させるものです。
爆発的天体現象のX線バーストは速い陽子捕獲過程と呼ばれる原子核燃焼過程によって駆動されている。モリブデン-84を中心とした短寿命不安定核の質量測定からジルコニウム-ニオブ・サイクルがこの反応過程の終端ではないことを初めて実験的に明らかにした。
概要
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)・素粒子原子核研究所・和光原子核科学センターの木村創大研究員、和田道治名誉教授、国立研究開発法人理化学研究所の開拓研究所・上野核分光研究室、兼仁科加速器科学研究センター・核構造研究部のマルコ=ローゼンブッシュ研究員、および同低速 RI ビーム生成装置開発チームの石山博恒チームリーダーを中心とする国際共同研究グループは、理化学研究所の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」の超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS) および低速RIビーム生成装置(SLOWRI)と多重反射型飛行時間測定式(MRTOF)質量分光器を用いて、モリブデン-84(84Mo、中性子数:42、陽子数:42)を中心とした不安定短寿命核の高精度質量測定に成功しました。これにより、モリブデン-84のアルファ粒子分離エネルギーがこれまで知られていた傾向から予測される値より小さいことを発見しました。これは低アルファ粒子分離エネルギーの島の存在を示す初めての実験的証拠となります。加えて爆発的天体現象であるI型X線バーストの主なエネルギー発生過程である速い陽子捕獲過程の終端の候補であった閉じた反応系の一つ、 ジルコニウム-ニオブ・サイクルの可能性を否定し、速い陽子捕獲過程がモリブデン-84を越えてより重い原子核を合成して進行することを初めて実験的に明らかにしました。
本研究の成果は、物理学の国際的な専門誌である「Physical Review Letters」に掲載されました。
詳しくは プレスリリース をご参照ください。
お問い合わせ先
高エネルギー加速器研究機構(KEK)広報室
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