【KEKのひと #35】加速器を、どう捨てる?放射化に取り組む 松村宏(まつむら・ひろし)さん

   
加速器は、KEKのような研究機関のほかにも、医療機関などにもあり、実は私たちの生活に身近な存在です。約30年前に作られ始めたその医療用加速器が廃棄時期にさしかかり、まだまだ制度の整っていない放射化物質の廃棄の問題に取り組む放射線科学センター准教授の松村宏さんに聞きました。

放射化物質の廃棄の問題に取り組む松村宏さん(左)

どのような研究をされていますか?

「専門は『放射化学』で、現在は、放射能を帯びた物質をどう処理するか、という問題に取り組んでいます」

放射能を帯びた物質は、どのような場所にあるのでしょう?

「加速器では、ビームにより物質中の原子核が破砕されたときに高エネルギーの粒子が生成します。ビームにより破砕された原子核や発生した高エネルギーの粒子で破砕された周辺の原子核は放射能を持ち、加速器運転停止後も放射線を出すようになることを放射化といいます。国内には大小1,711台の加速器があり、主に医療機関に置かれています。加速器の耐用年数はだいたい30年なのですが、30年くらい前から使われ始めた加速器が今、一斉に廃棄の時期に来ているのです」

放射化された物質の捨て方は、どのような方法で行うのですか。

「専門の業者に引き取ってもらうことになります。しかし、明確な廃棄の基準、手順が定められていないため、どう扱えばよいのか、特に医療機関から困っているという声をよく聞きます。医療用の加速器で、例えば装置自体のビームライン、加速タンク、パイプ、周辺の床や壁、どこまでがどう放射化しているのか、いないのか。測定に行き、稼働年数や部位などによってどの程度放射化しているのか、区分けをしています」

廃棄する手順がまだ整っていないのですね。

「はい。例えば、この部屋(30人程度定員の会議室)に装置があって、壁まですべて放射性廃棄物として捨てるとしたら、おそらく数十億円はかかるでしょう。装置だけを放射性廃棄物として、壁などは一般物として捨てる場合と数十倍の開きがあります。例えば1gあたり0.1Bq(ベクレル)くらいの放射化であれば、食品として口にしても大丈夫なレベルなのですが、それを一般物として捨てられる規定がないのです。それをどう一般物として効率的に捨てられるようにするか、マニュアル化したいと考えています」

いつくらいまでにできそうですか?

「手引書は今年中に完成させる予定です。これは原子力規制庁からの委託としての事業です。KEKにある古くなったPS加速器の廃棄作業にも役に立てればと思います。また、新しい加速器をつくる時に、効率的に廃棄できる構造にするようにアドバイスも出来ればと思います」

アメリカ・フェルミラボで放射化の調査をする松村さん(左)

はじめはなぜ放射化学に興味を持たれたのでしょうか。

「元々数学は好きでしたが、高校生のころ課題研究の実験で、大量の化学データをとって何かを示すのが面白いなと思って、地元、金沢大学の化学科に進学しました。大学では、ひたすらありとあらゆる元素を分解して測定しました。頭よりも手を動かしてデータをとっていくという作業が好きですね」

KEKへはいつから?

「金沢大で博士課程を終えて、日本大学に助手として勤務した後、2002年にKEKに来ました。国内では放射化学の分野でも、一つの大きな活躍の場所だと思っています。『これがサイエンスと言えるのか』という印象を持たれることもありますが、こういう分野もあるのか、と知ってもらえたらと思います」

福島の原発事故の時はどうされていましたか?

「実は、事故直後2011年3月14日に、同僚の斎藤究さんとほぼ着の身着のままの状態で現地入りして調査をしていました。高速道路を北上しながら1キロごとに測定し、予想外の放射線の信号が出てきました。緊急時の中、帰りの車のガソリンがなくなり、県庁に頼み込んで融通してもらって、ようやく帰ってこられました。放射性物質をきちんと測定できる人はあまりいないのもあり、この時に測定したものは大変貴重なデータだと思っています」

貴重なお話、ありがとうございました。

(聞き手 広報室・牧野佐千子)

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研究者、ユーザー、技術者、事務系職員など、KEKに関わる人たちにインタビューし、その分野に興味を持ったきっかけや日々の生活のことなど、一般記事などでは伝えられない素顔に迫る企画連載です
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