自動車用鋼板の開発に新しい道筋 ~先端鉄鋼「TRIP 鋼」の引張力に対するふるまいを実験的に解明~

   

  • 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
  • J-PARC センター
  • 公立大学法人兵庫県立大学
  • 一般財団法人総合科学研究機構
  • 国立大学法人京都大学

概要

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄)J-PARC センターのステファヌス・ハルヨ研究主幹、公立大学法人兵庫県立大学(学長 太田勲)の土田紀之准教授、一般財団法人総合科学研究機構(理事長 横溝英明)中性子科学センターの阿部淳研究員、国立大学法人京都大学(総長 山極壽一)のゴン・ウー任期付研究員らの研究グループは、J-PARCの物質・生命科学実験施設(以下、「MLF」という)に設置している高性能工学材料回折装置「匠」(以下「匠」という)を用いて、長さ 5cm のTRIP 型鋼試験片が千切れるまで引っ張りながら、中性子回折測定を実施し、TRIP鋼が高強度であることの原因を解明しました。
TRIP 鋼は、外から力が加わった場合に組織構造が変化し「相変態する」という特徴を持つ材料で、衝撃吸収特性に優れているため、自動車などの構造部材に多く用いられています。解析の結果、引っ張る際にTRIP 鋼の内部で起きる相変態で「残留オーステナイト」から生じる「マルテンサイト」が、TRIP鋼の強度向上に大きく寄与していることを証明しました。また、炭素含量の重量比が 0.2%と 0.4%の TRIP 鋼で同じ引っ張り実験をしたところ、この違いは相変態による強度変化には影響しないことも証明しました。TRIP 鋼の中で変形の際に起きる組織変化の挙動を定量的に詳しく解析できたのは本実験が世界で初めてです。

これは、
1)透過能力が大きく試験片内部の原子配列を見ることのできる中性子を利用し、
2)さらに装置分解能および強度が高い「匠」により、試験片の変形を止めることなく連続に中性子 実験ができる手法を開発したことによります。

TRIP 鋼で起きている現象の理解が深まれば、それを基に数値計算の高度化も可能になり、より優れた特性を持つ TRIP 鋼により自動車の軽量化と衝突安全性の向上に貢献できると考えています。

本成果は、2017 年 11 月 9 日発行の英科学誌『 Scientific Reports 』に掲載されました。

発表のポイント

  • 衝撃吸収特性に優れた構造部材として自動車などに使われる先端鉄鋼「TRIP鋼」の引っ張り力に対する結晶構造の変化及びそれがもたらす影響を中性子回折実験で詳しく解明することに世界で初めて成功
  • 外力の引っ張りによってTRIP鋼に含まれる「残留オーステナイト」の結晶構造が変化(相変態)して生じる「マルテンサイト」が鉄鋼の強度を高めていることを実験的に引っ張りながらその場で詳しく解析し、証明
  • TRIP鋼の炭素含量の違いは鉄鋼の相変態による強度変化に影響しないことも証明
  • さらなる自動車の軽量化と衝突安全性を高めるためのTRIP鋼の開発に有用

    詳しくは、プレスリリース(PDF)をご参照ください。