2020年 年頭のご挨拶

   
年頭の挨拶をする山内機構長
Tatsuya Matsui

皆さん、新年あけましておめでとうございます。新しい年2020年、令和2年が皆さんやご家族、そしてKEKにとって実りの多い年になるよう、心から願っています。私は、ここで年頭のあいさつをするたびにいくつかの大事な側面においてKEKが大きく変わりつつあることをお話ししてきました。この変化はだんだん具体的になってきまして、今後段階的に形を成していくであろうと思われます。この変化をうまく使ってKEKがこの先何十年にも渡って高い成果を発信しながら社会に貢献できる研究機関としてやっていけるような飛躍につなげることが今私に課されている最も大切な課題であろうという思いを強くしています。

KEKのような大学共同利用機関法人に変化が起こっている理由の一つは国立大学のありかたが大きく見直されつつあることに伴って大学共同利用機関法人や研究所のありかたにも大きな変化が求められていることが挙げられます。さらに、もっと根本的な変革の必要性として基礎科学に対する社会や我々自身の見方が変わってきているということも挙げるべきでしょう。以下にこの2点について述べます。

まずは、大学共同利用機関法人の組織の変革についてですが、KEKは約50年前に大学共同利用研究所の第一号として発足しました、以来半世紀にわたって大学の研究者とともに加速器科学の発展を担ってきました。平成16年度からは法人化されそのあり方は大きく変化しましたが「大学共同利用」の理念はKEKの存在意義の根幹としてその歴史を貫いてきました。この理念のもと、大学とともに多くの分野の学術研究を担い、日本の研究レベルの向上・維持に貢献してきたことは大いに誇るべきところです。大学共同利用の理想を掲げてKEKを創立した大先輩諸賢の高い見識と努力にあらためて尊敬の念を禁じ得ません。今日に至っても大学共同利用の理念は少しも色褪せていないものの、次の半世紀にわたってKEKが掲げるべき理想とは何でしょうか。半世紀の節目にあたって今こそ大先輩諸賢から受け継いだ財産を超えた知恵が求められていると考えます。

KEKにおいてこのような問題意識から議論を進めている一方において、他分野をカバーする大学共同利用機関法人や大学共同利用研究所を含めてそれら全体のあり方を見直そうとする動きが起こりました。その議論の中で4つの大学共同利用機関法人を統合し、そのもとに17の研究機関を設けようというアイデアが注目を集めました。これは複数の企業を持ち株会社のもとで統合することによってスケールメリットを生かし、不必要な競争を回避しようとする傾向を大学共同利用機関法人にも適用しようとする議論で、国際化したプロジェクトやJ-PARCのような複数の法人が運営するプロジェクトのホストとなっているKEKにとっては受け入れがたい案であると考えざるを得ませんでした。その結果、機構統合に代わる措置として登場したのが、4機構と総研大で「連合体」というあらたな組織を作るというものです。昨年このニュースが一部の新聞で報道された際に、4機構と総研大が統合されて「連合体」ができるという意味で伝えられましたが、それは正しくありません。連合体とは4機構と総研大で共通に持っている機能で統合できるものを統合し、その結果、法人統合に伴うマイナス面を回避しつつスケールメリットを生かす仕組みを作るというアイデアです。この具体化のために昨年度から4機構と総研大によって「連合体」設立準備委員会が設けられ、文部科学省に設けられた作業部会と連携して制度設計が行われています。この機会を利用して大学共同利用機関法人がその機能をより効果的に果たせるような仕組を作っていきたいと考えています。

Tatsuya Matsui

もう一つ、これはもっと本質的なことだろうと思いますが、基礎科学に対する社会の考え方が変わってきているという問題があります。科学研究は技術開発に直接つながる場合があって、その時には経済効果があるだけではなく我々の生活に直接恩恵をもたらす場合があります。昨年ノーベル化学賞を受賞された吉野彰さんが開発に貢献されたリチウム電池などはその典型的な例でしょう。ご本人がこの研究を始められた当初は科学的興味が大きな比重を占めていたのではないかと思いますが、結果的には我々の暮らしの中にスマホから自動車までリチウム電池が実に数多く使われており、持続可能なエネルギーの有効利用のためにも大きな役割を果たすことが期待されています。このような研究はパスツール型、あるいはエジソン型と呼ぶそうですが、こういった研究の価値は一般的に非常に理解しやすく、企業が投資を回収できる可能性も高いために世界的にもこういったタイプの研究に関心が高くなっているのがこのところの傾向です。私はこの傾向に異を唱えるものではありませんが、KEKにおける研究の大きな部分を占める基礎研究、つまり、知的好奇心に基く真理究明の学術研究、これをボーア型と呼ぶそうですが、この価値が軽んじられる傾向に対してはしっかりとモノを申し上げておかなければなりません。ちなみにこのボーアという人は20世紀初頭のデンマークの物理学者で、量子力学という基礎的な物理学の確立に大きな貢献をした人です。ボーアの動機になったのはニュートンやマックスウェルの物理学では理解しつくせないことをどう理解するか、あるいは粒子性と波動性という一見矛盾することをどう納得すべきか、という大変哲学的なものであったということですが、その後の100年で人類が手にした技術的達成は量子力学に極めて大きく依存したものであることは特筆に値します。すなわち、ボーアの時代の先人が明らかにした真理に基づいて様々な工夫を繰り返した結果が今我々が享受している技術文明であると言ってよいと思います。この様々な工夫の部分だけを取り出して、現在の技術文明がこの工夫のみの成果として成り立っていると考えるのは浅薄な見方であると言わざるを得ません。この背後に自然界の真理に対する深い理解があればこそ、このような工夫の余地があったことはよく理解する必要があると思っています。しかしながら、100年後にどのような展開につながるのかわからないまま、真理の理解が重要と言ってもなかなか社会の理解につながらないのが実情ですが、数年前からいろいろな方がいろいろな立場から発言されているのが徐々に社会に浸透し始めたのは感じられます。行政においても基礎科学は軽視すべきでないという意識を持ってくださる方はかなり増えているのではないかと思っています。この傾向は歓迎すべきですが、まだまだKEKの中心になっているような基礎科学のなかでもひときわ基礎的な研究にまで十分理解が広がっているとは言えないので、さらに説明を重ねていかなければならないと思っています。最近いたるところでAIという言葉を聞きます。AIをいろいろなところに導入することによって新たな産業に繋げ、人間や社会のあり様を一変させようという動きは目を見張るスピードで進行しているように見受けられます。自動車の自動運転技術などはその最たる例でしょう。今年の3月には日本でも5Gと呼ばれる新しい携帯通信端末の運用が開始され、これも社会を一変させる可能性が期待されています。このような新しい技術を中核として成り立つ時代にあってKEKが担っている基礎科学研究の意義をどう訴えていけばよいのか、あるいはKEKが担う研究はどう変わらなければいけなのかも含めて非常に難しい問いを投げかけられていると思っています。

これらのようにKEKがこれから歩んでいく道は決して平たんではなく、一本道でもありませんが、最も基本的なところで自然や物質の姿を明らかにしようとする基礎科学研究は人類の営みの中でも最も崇高なものであると信じています。KEKの職員の皆さんは例外なく全員がこの崇高な営みを進める、あるいはそれを直接支援する役割を担っています。どうか皆さん、それを誇りに感じていただいて、新しい年2020年が実りの多い年になるように共に歩んでいただけるようお願いしたいと思います。私も理事の皆さんと共にそれを支えるべく最大限の努力を行って参ります。

機構長 山内正則

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