【KEKのひと #29】人間の持つ能力をどう活かすか。 岡田竜太郎(おかだ・りゅうたろう)さん

   
1988年、東京生まれ。国宝の復元作業などにも携わってきた腕の良い左官だった祖父に、幼少のころからものづくりを教わってきた。ゲームや友達との外遊びなど、普通の子どもの遊びに加え、木工や寄木細工などの工作で遊んでいた。大きな丸太を運んできて、公園に木製の滑り台を作ったこともある。

自分の手を動かして作り上げたものを、みんなが使って喜んでくれる。祖父に教わったものづくりが、大好きだった。

KEK共通基盤研究施設超伝導低温工学センター准技師・岡田竜太郎さん(撮影:牧野佐千子)

中学に入り、その祖父が病気の手術の影響で体力を落とし、歩けなくなってしまった。もう一度、自分の体を動かしてものづくりをしてきた祖父に、生きがいを感じてもらえることはできないだろうか。科学技術の力で、例えば補助義肢を付けた人が指先を自分の意志で動かしたり、体の動かない人が電動車いすの方向を変えたりできる福祉装具の研究の道に進もうと考えたのはこのころだ。そのために、早く専門的な勉強がしたいと、東京高専に進学した。高校、大学と続く受験勉強をパスし、高専科を出て大学院に進むのが近道だという計算もあった。

高専では、その道を変える出会いがあった。KEKの山本明名誉教授だ。高エネルギー加速器、宇宙粒子物理実験分野での超伝導技術応用の推進者として、様々な先進技術開発、国際協力プロジェクトに取り組んで来た。その山本氏が、高専にKEKへの就職説明会のためにやってきた。100年、200年先の物理学を語るその熱意、情熱に衝撃が走った。「本当の研究者とは、こういう人のことをいうのだ」。そうだとすれば、自分が目指すべきは、研究者ではない。

「山本先生が語るとてつもない夢を見たい。そのためなら自分の人生を使ってもいい」。研究者を支える仕事がしたいと、2011年、当時山本氏がセンター長を務めていたKEK共通基盤研究施設超伝導低温工学センターの技術職に就いた。

KEKに来て8年目。現在、主に業務として取り組んでいるのは、LHC※のD1磁石のアップグレード作業のため、試作磁石の性能試験をするソフトウェアを作ることだ。D1磁石とは、加速器の一番衝突点の近くでビームを曲げる磁石。その磁石の電圧信号や温度、ひずみなどを計測する。磁石等を超伝導状態にするための液体ヘリウムのプラントの運転管理など、センターの日常業務も行う。

「研究者が成功するための下準備をすべて自分がやる、という勢いでいます」。そう語る自身が見据えるのは、新しい物理法則の発見を目指し、国内に建設が検討されている「国際リニアコライダー」プロジェクトの技術者。山本氏が、超伝導技術応用を中心として、技術設計・研究開発をリードしてきたプロジェクトだ。「いつILCに呼ばれても良いように、腕を磨いておきます」。常に新しい技術にアンテナを張り、日常業務の中でも取り入れ、その時点で最善の技術の提供を続けている。

趣味は、空手に柔術、剣術、合気道、弓道。「25メートル以内なら、何かしらの術を使って敵を倒せます」。自分の、人間の持つ能力をどう活かすか。自身の最大限の力を引き出すため、今日も、自己鍛錬に余念がない。

(聞き手 広報室・牧野佐千子)

※LHC…大型ハドロン衝突型加速器。CERN(欧州合同原子核研究機関)が建設した世界最大の衝突型円型加速器のこと。

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研究者、ユーザー、技術者、事務系職員など、KEKに関わる人たちにインタビューし、その分野に興味を持ったきっかけや日々の生活のことなど、一般記事などでは伝えられない素顔に迫る企画連載です
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