STF

国際リニアコライダー(ILC)等の次世代の加速器実現に向けて重要な役割を担う、高性能の超伝導空洞開発と、超伝導加速システムの試験開発を行っています。

STF110829_s.jpgクライオモジュールで構成する主線形加速器

目的・ビジョン

「超伝導加速」は、ニオブ等の超伝導体で作った加速空洞を極低温まで冷却し、超伝導状態にして粒子ビームを加速する方式のことです。次世代加速器の加速方式として、世界で研究開発が進められています。

超伝導加速の最大の特徴は、その加速効率の高さです。超伝導素材でつくられた空洞にマイクロ波を送り込んで電場をつくり、電子や陽電子のビームを加速します。-271度Cまで冷却されたニオブ製の空洞の内表面は超伝導状態になり、電気抵抗が生じません。そのため、電力損失や加熱が起こらず、空洞の中にマイクロ波のエネルギーを、きわめて効率よく溜め込むことができるのです。

小さな電力で高電界を発生することができるので、短い距離で大きなエネルギーを粒子に与えることができます。つまり、同じエネルギーを実現するための加速器の長さを抑えることが出来るとうことで、これは加速器の小型化につながります。また、空洞の発熱を抑えることができるため、過熱対策用の冷凍機コストを抑えることも可能になります。

加速器の技術は現在、ガンの診断や治療などの医療分野や、素材の改良、精密か構などの工業分野など多岐にわたって活用されています。超伝導技術で加速器が小型化されれば、よりコンパクトで省エネルギー、かつ安価な装置を実現でき、様々な応用分野でより広い選択肢と機会を提供することができるようになります。

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概要

ノーベル賞を受賞した小林誠・益川敏英の理論を実証したKEKB加速器で使われた超伝導加速空洞は、大電流電子ビームを安定に加速し、世界トップレベルの性能を有します。また、J-PARC (大強度陽子加速器施設)第二期計画に向けても、超伝導加速空洞が開発されており、それらの技術の蓄積をもとに、さらなる研究開発が進められています。

2004年、次世代の加速器構想である「国際リニアコライダー(ILC)」の基幹技術として、超伝導空洞技術を採用することが、研究者間で国際的に合意されました。その時点でKEK は、超伝導加速空洞技術の開発とビーム蓄積リングへの利用に関して、すでに、TRISTAN 以来20 年におよぶ経験と人材を有していました。世界にさきがけて超伝導加速技術の大規模な応用に成功しており、その後、単体としての空洞の加速電界改善研究においても世界をリードする成果を得ていました。

しかし、ILCに要求される技術レベルは格段に高いもので、さらなる研究開発が必要であったことと、当時はKEK構内に超伝導加速の研究開発設備が点在しており、作業効率に改善の余地があったことから、超伝導RF試験施設(Superconducting RF Test Facility : STF)をKEK構内に建設することとなり、2005年から建設が開始されました。

2005年〜2008年をSTFフェーズ1、2009年〜2013年をフェーズ2と位置づけ、超伝導加速技術とシステムの試験開発を行っています。

フェーズ1では、基盤研究設備の立ち上げ、ILC むけ超伝導空洞の開発と試作、そしてこれらを納めた横置きクライオスタット(クライオモジュール)を絶対温度2度に冷却した時のパルスRF による動作試験を実施しました。

20100706Di-0115_STF.jpgSTFにおけるS1グローバル実験2008年10月から約2年半にわたり「S-1グローバル」と呼ばれる国際協力のシステム実証試験がSTFで実施されました。「S1」とは、ILCの技術開発計画の中の「クライオモジュール試験の第一段階」を指しています。この試験のために、世界の研究所から高い性能が確認された合計8台の超伝導加速空洞が集められました。イタリア国立核物理学研究所(INFN)から到着したクライオスタットにはアメリカと欧州から送られた空洞各2台を、KEK製のクライオスタットには日本製の空洞4台を組込んで2台を連結。同時に運転して、ILCの加速勾配※設計値である1メートル当たり31.5メガ電子ボルト(31.5MV/m)以上での運転をデモンストレーションすることを目的とした試験で、クライストロン(加速空洞にマイクロ波を送り込む装置)1台を使って8台のうち7台の空洞の同時運転に成功しました(1空洞は故障により離調)。また、平均加速電界として26MV/mでの安定な高電界運転を達成しました。クライオモジュールを構成する各種機器が十分に機能して動作していることが実証されたことになります。

STFフェーズ2ではILC 線形加速器のプロトタイプを建設し、ビームを使った運転試験を行う予定です。並行して、大規模加速器で必要となる、機材生産技術の工業化の模索を本格化する計画です。

補足説明

※1 クライオスタット
電子/陽電子ビームを「超伝導加速」するためのシステムで、超伝導体である「ニオブ」製の空洞を、絶対零度(273℃)に近い極低温まで冷やして超伝導状態にし、そこに高周波電力を入力して交番加速電界を発生させ、ビームを光速近くまで加速する。超伝導状態では、電気抵抗がほぼゼロになるため、非常に効率よく高周波電圧をかけ、加速できるのが特徴。

※2 国際リニアコライダー
アジア、北米、欧州の3地域で協力して推進している次世代電子・陽電子衝突型加速器。ビッグバン直後の状態を再現することで、宇宙創成の謎を解き明かすことが目的。また、研究開発から生まれる様々な先端技術の波及効果にも大きな期待がかかっている。

※3 ILCの加速勾配
粒子の「加速」とは、スピードの増加とエネルギーの増加、双方を意味する。加速器が一定の距離で粒子のエネルギーをどれだけ増加させられるかを「加速勾配」と呼び、加速勾配が高ければ高いほど、直線型加速器の長さを短くすることができる。

関連するWebページ

国際リニアコライダー(ILC)公式サイト http://www2.kek.jp/ilc/old/ja/
STF(超伝導リニアック試験施設棟) http://www2.kek.jp/stf/
ATF(先端加速器試験施設) http://atf.kek.jp/
物理・測定器 http://www-jlc.kek.jp/index-j.html
LCC http://www.linearcollider.org/

(2016.10.7 更新)