【KEKのひと #25】「計算機の膨大なデータを広く、使いやすく」高瀬亘(たかせ・わたる)さん
KEK計算科学センターの技術職員として、膨大な実験データを解析するための計算機システムの管理運用、モニタリングなどを行う。「新しいものはとりあえずやってみる」。日々変化するコンピュータの世界で、必要とされる新しいプログラムの開発等に意欲的に取り組む。
―今年度のKEK技術賞※おめでとうございます。まずは受賞されたシステムについてお聞きしたいと思います。
「計算機の様々なデータを全文検索するElasticseach(エラスティックサーチ)と、それを可視化するKibana(キバナ)というツールがあります。コンピュータのCPU(中央処理装置)、メモリ、消費電力や温度など、文字として現れるあらゆるデータを読み込むことができます。これを複数のユーザーで共有して使う際に、アクセス制限をかけて安全に使えるシステムを考案し、それに必要となるキバナ用の拡張機能『Own Home(オウンホーム)』を開発しました」
―開発のきっかけは?
「短期派遣制度で2014年に1年間、欧州合同原子核研究機関(CERN)のIT部門に行っており、あちらで導入しているエラスティックサーチとキバナのアクセス制御の課題に取り組んでいました。一方で、フランスの国立原子核素粒子物理研究機関の計算センター(CC-IN2P3)でも同様に両ツールのアクセス制御の問題を抱えていました。そこで帰国後、日仏TYL事業における一つのプロジェクトのもと、CC-IN2P3の計算設備における要件を満たすため考案したものが、今のシステムのベースとなっています。また、昨年4月にCERN IT部門において、モニタリング環境を一元化するための一機能としてオウンホームが採用されました」
―コンピュータはいつごろから興味を持ち始めたのですか?
「小学生の時からパソコンでゲームをしたり、年賀状を作成したりするのが楽しかったです。中学に入る頃には、ジャンケンや○×ゲームなど、簡単なゲームをつくるプログラムを自分で調べながら作るようになりました」
―中学生からプログラミングをしていたのですね。
「それから、地元の富山商船高等専門学校(現・富山高専)情報工学科に入学しました。プログラミングの授業があるような学科で、5年間みっちり学び、さらに同校の専攻科に進みより専門的な知識と技術を身につけました。卒業後、筑波大の大学院システム情報工学研究科に入りました」
―KEKに入ったきっかけは?
「高専の専攻科の時に、がんの治療などに使われるGeant4(ジアントフォー)をベースとした粒子線治療のシミュレーション用ソフトウェアの機能を拡張する研究を行なっていました。当時の研究室の先生がKEKの教員の方々と共同研究していたことなどがきっかけでKEKの研究内容を知りました。現在も、計算機をたくさん並べることでシミュレーションにかかる時間を短くする仕組みを作る手伝いをしています」
―CERNでの生活はどうでしたか?
「短期派遣研修で1年間、妻と一緒に行きました。CERNではIT部門のクラウドサービスを提供するグループにいました。あちらはワインがおいしくて、家で飲んだワインのコルクを貯めておいたのですが、家で飲んだ分だけで帰国時には合計360本くらいになっていました(笑)」
―息抜きは何ですか?
「1歳の娘とお風呂に入ったり遊んだりしていると、もうかわいくて。癒されますね」
―ありがとうございました。
(聞き手 広報室・牧野佐千子)
※KEK技術賞…KEKの科学技術上の優れた業績を表彰し、広く技術の発展に資することを目的に、特に優れた技術開発及び改善・改良に係わる性能向上等に貢献したKEKに勤務する技術者並びに技術グループを対象としている。
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