ATF

次世代加速器構想である国際リニアコライダー(ILC)の実現には、「極小」で「平行度の高い」ビームの生成が必須です。KEKでは、その実現をを目指して高品質なビームの生成と制御の研究開発が進められています。

目的・ビジョン

ILC は加速した電子ビームと陽電子ビームを正面衝突させる衝突型加速器です。加速される「ビーム」は非常に薄いリボンのような形で、200 億個の電子や陽電子から形作られています。ビームのサイズを小さくすれば、ビームの中の電子や陽電子の密度が高くなり、電子と陽電子の衝突の頻度が上がるため、次世代加速器ではビームのサイズは、ビームとビームの衝突点付近で、高さ5 ナノメートル(ナノメートル= 100 万分の1mm)幅300 ナノメートルという極小サイズが要求されています。

このような非常に小さなビームを作るためには、磁場の強度分布の変化が急でしかも精密に制御された「高精度高勾配収束電磁石システム」と、粒子の方向がよく揃った「超平行ビーム」を実現しなければなりません。また、小さなビームを正確に衝突させるには、衝突位置のズレをナノメートル精度に制御する技術も不可欠です。

KEKの試験加速器「先端加速器試験施設(ATF)」はILCの電子側直線加速器の入射加速器と同じ構成となっており、電子銃部、直線型電子加速器、粒子の平行度を高めるダンピングリング(円形加速器)、ビーム取り出し計測ライン、電磁石でビームを極小に絞り込む最終収束ビームライン(ATF2)から構成されています。ダンピングリングでは、従来の加速に比較して約100倍も平行度の高い「超平行ビーム」をつくることができます。この種の試験加速器は世界でもATFのみであり、世界中から研究者が集まり、研究開発が進められています。

概要

ATFは、1990年に設計作業が開始され、1997年にビーム運転を開始しました。2001年には設計エミッタンスに到達している事を確認し、ILCに必要なさらなる高品質ビーム生成に向けた研究開発と、そのビームを使用したユニークな研究開発を続けています。 ATFの電子ビーム品質は世界最高水準を実現しており、また、世界最高の超低エミッタンス性能を誇るものです。

ATF 電子リングは周長約140mのレーストラック型で、真空パイプの中を電子ビームが走ります。このパイプに沿って、約50個の偏向磁石(電子ビームをパイプの形に沿って曲げる磁石)、約100個の収束磁石、約100個のステアリング磁石(電子ビームの軌道を修正する磁石)、約100個のビーム位置モニターが、測量技術を駆使して、50ミクロン(100分の5mm)の精度で設置されています。中でも重要なのが収束用磁石の設置精度です。収束磁石はビームがその中心を通った時には収束作用のみを発揮しますが、中心からわずかでも外れると、収束だけでなく、ビームを「乱す」作用を生じてしまうからです。

電磁石群の設置精度を50ミクロンにしても ATFに要求される超平行ビームは実現できません。そこで考え出されたのがビームベースアライメント。磁石の位置に少々の乱れ(50ミクロン程度)があっても、ビームの軌道を微調整し、各々の収束磁石の中心を通るようにする方法です。この時に活躍するのが、ビーム位置モニターとステアリング磁石です。

まず、ビーム位置モニターでビーム軌道を測定し、ステアリング磁石でビーム軌道を微調整し、収束磁石の中心をビームが通るようにします。しかし、これではまだ不十分。そこで、収束磁石のどこを通っているかを「ビームに聞く」のです。ある1つの収束磁石の強さを変化させ、それよりも下流のビーム位置モニターでビームの位置の変化を見ます。変化が無ければ、ビームは先の収束磁石の真ん中を通っています。変化があれば、この収束磁石の真ん中を通っていないことになります。その場合は、この収束磁石より上流のステアリング磁石で軌道を修正します。これを一周にわたって繰り返せば、ビームはすべての収束磁石の中心を通るようになります。

超平行ビームにした後は、いよいよビームをナノメートルのサイズに絞り込みます。基本的には虫眼鏡で光線を絞るのと同じです。しかしながら、これまでにない極小のビームを実現するために、ここにも多くの工夫があります。まず、多数の磁石を並べます。高性能な光学写真が、多くのレンズを並べ、収差(光の絞り込みを阻害する要因)を取り除き、シャープな像を得るのと同じ原理です。そのため KEKの試験加速器に設置された絞り込み用のビームラインは、長さが60mもあります。さらに、本番の国際リニアコライダー(ILC)では試験加速器よりずっとエネルギーが高くなるので、絞り込み用のビームラインの長さは 1.2 kmにもなります。数多くの磁石を精度よく並べる工夫も必要です。ここでもビームベースアライメントが活躍します。そして、最後に強い磁石でギュッと小さく絞ります。試験加速器では、絞り込まれたビームのサイズは35ナノメートル、国際リニアコライダー(ILC)では5ナノメートルになる予定です。

関連するWebページ

国際リニアコライダー(ILC)公式サイト https://www2.kek.jp/ilc/ja/
STF(超伝導リニアック試験施設棟) https://www2.kek.jp/stf/
ATF(先端加速器試験施設) https://atf.kek.jp/
物理・測定器 https://www-jlc.kek.jp/index-j.html
LCC https://www.linearcollider.org/

(2016.10.7 更新)