ヒドリド超イオン導電体の発見

Ba1.75LiH2.7O0.9の結晶構造と相転移挙動。結晶構造中の青球、赤球、緑球、水 色球、白はそれぞれH、O、Ba、Li、空孔に相当

自然科学研究機構分子科学研究所
東京工業大学
高エネルギー加速器研究機構
J-PARCセンター

概要

分子科学研究所の小林玄器 准教授、東京工業大学の菅野了次 特命教授、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所の神山崇 名誉教授、大友季哉 教授、ヘルムホルツ研究所のDominic Bresser博士、フランス原子力・代替エネルギー庁のSandrine Lyonnard博士、ラウエ・ランジュバン研究所のBernhard Frick博士らの国際共同研究チームは、負の電荷をもつ水素“ヒドリド(H)” を高速かつ低い活性化エネルギーで拡散する超イオン導電体 Ba1.75LiH2.7O0.9 (以下、BLHO)を開発しました。

固体内を水素が拡散するイオン導電体は、燃料電池を始めとした水素エネルギーデバイスの固体電解質として利用されています。一般的には正電荷のプロトン(H+)が電荷輸送を担うことが知られていますが、近年、Hも可動イオンになることが明らかとなり、水素の新たな電荷担体として注目を集めています。Hは一価、適度なイオン半径、軟らかさといった“高速拡散に適した特徴”を有することから、中低温域(室温〜400 ºC程度)で作動する固体電解質の開発が期待されていますが、高い導電率と低い活性化エネルギーを兼ね備えた物質は見いだされていませんでした。

本研究チームは、電荷担体となるHと酸化物イオン(O2–)が共存する酸水素化物を対象にした物質探索をおこない、新規Hイオン導電体BLHOを開発することに成功しました。酸水素化物の合成にこれまで主に用いられてきた高圧合成法ではなく、常圧下での一般的な固相反応で酸水素化物を合成したことで、多量の空孔を含む常圧安定組成[Ba1.75VBa0.25]Li[H2.7VH0.4O0.9](VBa: Ba空孔、VH: H空孔)の存在を見いだせたことがH超イオン導電相の発見の鍵となりました。
BLHOは、300 ºCで生じる構造相転移により、実用性能の基準である10–2 S/cmを越える高いイオン導電率がほぼ温度依存性なく得られる、いわゆる超イオン導電体になります。イオン導電体の研究開発の歴史において、超イオン導電状態の発見は、その後の固体電解質の開発を促進するきっかけとなってきました。今回、H導電体で初めて超イオン導電状態が発見されたことは一つの分岐点であり、今後、H導電体の更なる高性能化や新たな水素利活用技術の創出に向けて物質開発が大きく進展することが期待できます。

本研究は、JST戦略的創造研究推進事業(さきがけ「新物質科学と元素戦略」)、NEDOエネルギー・環境新技術先導研究プログラム、文部科学省科学研究費助成事業 新学術領域研究「ハイドロジェノミクス:高次水素機能による革新的材料・デバイス・反応プロセスの創成」、「複合アニオン化合物の創製と新機能」、日本学術振興会 科学研究費助成事業の支援を受けて行われました。

本研究成果は、2022年1月13日午後4時(英国ロンドン時間)にSpringer Natureが発行する国際学術誌「Nature Materials」に掲載されました。

本研究成果のポイント

• H超イオン導電性を示す固体電解質材料を初めて創出
• H導電を利用した新たな電気化学デバイス開発への展開が期待

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