【KEKエッセイ #4】自然は人知を出し抜く

   

「自然は人知を出し抜く」、これはノーベル物理学賞を2008年に受賞された南部陽一郎博士の著書「クォーク」にある言葉です。高エネルギー加速器研究機構(KEK)では加速器を使ってさまざまな研究をしていますが、それらの研究の大きな目的の一つが「自然の法則を解明すること」です。自然の法則を解明するとはどういうことか、フレミングの左手の法則を使ってわかりやすく説明しましょう。(素粒子原子核研究所・藤本順平)

フレミングの左手の法則を利用した電磁石がKEKにはたくさんある。(撮影:広報室 髙橋将太)

地球には数多くの生物種がいますが、人類を除く他の生物種は環境が大きく変わった時、たまたまその環境に適合した遺伝子を持つ種が生き延びることで存続してきました。 しかし、人類だけはそれとは異なる戦略で生き延びています。 それは自然が持つ法則を知り、環境の変化に対応して生き延びる戦略です。 人類は400年ほど前、自然に法則が存在することに気づきました。 しかも自然の動きを数量化して数学を用いると法則がよくわかり、応用しやすいことにも気づきました。 自然の法則がわかると生存戦略上優位になるということへの気づきでもありました。

フレミングの左手の法則イラスト

中学校で習った「フレミングの左手の法則」を思い出してください。 左手の親指と人差し指、中指を3方向に伸ばします。 この時、電線に中指の指し示す方向に電流を流し、その電線に対して人差し指の向きに磁場が向くように(N極からS極へ)磁石を置くと、親指の向きに電流が力を受けるというのが、フレミングの左手の法則です。

これは150年ほど前、英国のマイケル・ファラデー博士が実験室で発見した現象です。 3つの量の関係が複雑で覚えにくかったので、のちに同じく英国の電気技術者、ジョン・フレミング氏が覚えやすいようにと、左手の形を使って説明したことから「フレミングの左手の法則」として知られるようになりました。 私はこれを”左手のあまのじゃくの法則”と呼びたいと思います。 中指と人差し指の向きの電流と磁場があった時、何かが起こるとしたら、中指と人差し指が作る面上の斜め方向に何かがおきると考えがちですが、あに図らんや、自然はなんと第三の向きである親指の向きに、しかも「力」を生じるのです。 自然はなんと予想外のことをするのでしょう。 電線が受ける親指方向の力は一瞬なので、そのままでは何も起こりませんが、常に同じ上向きに力がかかるようにする「整流子」を工夫することで、回転機械「モーター」が生まれました。

フレミングの右手の法則イラスト

一方、ファラデー博士はさらにこの法則には右手バージョンがあることにも気がつきます。 「フレミングの右手の法則」です。 右手の中指の向きに沿って電線を置き、人差し指の向きに磁場がN極からS極に向かうように磁石を置いた状態で、親指の向きに電線を動かすと、電線に中指の指し示す向きに電流が流れることがわかったのです。 電線と磁石があれば電気を作れるのです。 右手の法則で作った電気を使って、鉄を精錬し、鋼(はがね)の筐(きょう)体を作り、左手の法則で動くモーターを搭載すればライオンの牙や移動速度に対抗できる装甲車が作れます。

これは、自然の法則の解明が生存基盤の強化につながる良い例です。 しかもあまのじゃくです。 ファラデー博士が発見した法則はその後、英国のマクスウェル博士によって1864年、4つの連立方程式にまとめあげられました。 その方程式から導かれる「電磁波」が、当時ようやく測定された光の速度と一致したことから、光の正体が電磁波であることもわかりました。 自然は人類の想像しない法則を持っていることがあるのです。 「きっと、自然はこんな具合に我々にとって気持ちよくできているのだろうなあ」という人類の思いの外側に自然の法則が存在している可能性があります。 KEKは加速器を使って、そうした人知を出し抜く自然の法則を解明すべく、日夜研究を進めています。人類の生存基盤強化につながる新法則の発見を願って・・・。

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