【KEKのひと #41】宇宙の全体構造はどうなっているのか。 松原隆彦(まつばら・たかひこ)さん

   
長野県で星空を見上げながら育った少年は、どのようにして宇宙の構造を研究する研究者になったのか。宇宙にある物質の質量を求めたり、宇宙誕生直後の光や天体観測データを計算に駆使したり、あらゆる方向から宇宙の全体構造の解明に挑むKEK理論センター教授の松原隆彦さんに聞きました。

宇宙の全体構造の解明に挑む松原さん

現在、どのようなことを研究されていますか?

「宇宙の全体構造がどうなっているのか、理論的に解き明かす研究をしています。宇宙にはまず、星、銀河があり、また、銀河団、超銀河団と大きな構造があります。さらに、それらがひものように連なっている『フィラメント構造』、1枚の紙のようになっている『シート構造』、さらにそのシートに包み込まれた形になっていて天体があまり見られない『ボイド構造』などがあります」

なぜ宇宙の構造を専門に?

「長野県の山の中で育ち、子どものころは庭で空を見上げると星がとてもよく見えたのです。星空を眺めながら『この世界はどうやってできているんだろう?』『なぜ星空の世界と、地上の世界は違うんだろう?』と延々と考えるのが好きでした。そこから、大学は京都大学の理学部へ。はじめは理論の中でも素粒子理論をやっていて、量子重力をテーマにしていました」

量子重力というのは?

「アインシュタインの一般相対性理論が重力の理論で、量子論が出てきたのがだいたい同じくらいの時期ですが、量子の世界と重力の世界は、相性が悪いのです。この100年近くの間、それらを合わせた理論を作ろうという努力が続けられてきました。素粒子理論の世界では、このあたりの未解決問題は大きな難問なのです。でも、修士2年目の時に、宇宙の原始の光を観測するCMB(宇宙マイクロ派背景放射)の実験で温度揺らぎが見つかり大ショックを受けました。宇宙論はこれから進むぞ、と思いましたね。そこから方向をシフトして、博士課程からは宇宙論を専門としてきました」

CMBの実験で、これまでに理論の常識が覆ったということはありますか?

「宇宙理論は無数にあり、それまではどれが正しいかわからなかったのですが、CMBの精密観測がはじまったここ10年あまりの間に、宇宙論は精密な科学になりました。それまでは、100はさすがに違うけど10と1はだいたい同じだよね、という感じだったのですが、0.0001くらいの精密さで分かるようになりました。例えば、2本の平行線を永遠に伸ばしていったら、そのうち交わるのか交わらないのかという謎があり、以前はそれを確かめようがありませんでした。CMBでは、ものすごく遠くの情報を精密に測定できるため、どういう幾何学が成り立っているかがわかります。その結果、意外と空間は曲がっていなかった、ということが分かりました」

ちょっとは曲がっていたということですか?

「理論の計算では、一般相対性理論をもとに計算すると、宇宙の中にある物質の量によって、平行線が遠くで開いているか閉じているか計算できるわけです。そこでは、遠くに行くと広がっていくのではと予想されていたのですが、その計算よりも広がっていなかった。これはつまり、何らかの未知のエネルギーがそこに関わっているということになります」

なるほど。ダークエネルギーなどが関わってきますか?

「これだけ聞くと、何かわからないからダークエネルギーでしょ、というつじつま合わせに聞こえますね(笑)CMBでは宇宙の幾何学が分かり、大規模構造の観測では宇宙の中にある物質の量が決められます。超新星爆発の観測では、宇宙の膨張についてわかります、この3つの観測が、それぞれ裏付けし合ってひとつの理論に到達します。2000年ごろに始まったこれらの実験観測の物理学全体に与えるインパクトは大きいですね」

博士課程を卒業されてからも、ずっと宇宙論ですか?

「1996年に東京大学の助手になり、その後アメリカのジョンホプキンス大学で2年半研究していました。ここでは大規模構造探索のデータ解析も行っていました。宇宙にどのくらい物質があるのか見積もる作業です。2000年秋に帰国し、東大を経て名古屋大で16年あまり研究していました。KEKに来たのは2017年4月のことです」

同じことをずっと研究されていて飽きたりしませんか?

「いえいえ、次から次へ、いろいろなことがでてくるので、飽きません。やればやるほど奥が深くておもしろいです。1996年に、大規模構造を使ってダークエネルギーが分かるということを提唱したのですが、それが観測の新しい手法を開発し、メインストリームになりました。提唱した理論が実験観測で使われるとうれしいですし、やめられないですね」

研究以外の趣味などはありますか?

「最近は本を書くのが趣味のようになっています(笑)単著は今回の『図解 宇宙のかたち』で10冊目です。睡眠時間を削って書きました」

ぜひ読ませていただきます。今日はありがとうございました。

(聞き手 広報室・牧野佐千子)

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研究者、ユーザー、技術者、事務系職員など、KEKに関わる人たちにインタビューし、その分野に興味を持ったきっかけや日々の生活のことなど、一般記事などでは伝えられない素顔に迫る企画連載です
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