【KEKのひと #38】世界初!ミューオンの加速に成功 大谷将士(おおたに・まさし)さん

   
このほどKEKで、世界で初めて加速に成功したという「ミューオン」。世界で初めてだけれど、一体何が「スゴイ」のか。ミューオンを加速すると何がわかるのか。KEK加速器研究施設助教の大谷将士さんに聞きました。

ミューオンの加速装置と大谷さん

今どのような研究をされているのでしょうか。

「ミューオンの異常磁気能率の精密測定実験のための準備をしています。精密に測るために、これまでにない高い指向性を持つミューオンビームを作ることです」

精密に測ると、何が分かるのでしょうか。

「10年以上前にアメリカのブルックヘブン研究所(BNL)で行われていました。そこでの測定値と、現在の素粒子の標準理論はズレがあります。このズレがなぜ起きるのか、さらなる精密測定をすることで手掛かりがつかめるはずなのです。このズレは、まだ我々がその正体が分かっていない暗黒物質が関係しているのではないかとも考えられています」

BNLと大谷さんたちの実験は、何が違うのですか?

「ミューオンビームの質が違います。ミューオンは、陽子ビームを標的に照射して生成したパイオンが崩壊した際に出てきます。陽子から見ると孫粒子になるわけですが、かなり広がったビームになります。BNLでは広がったビームを貯めるために強い電場で収束していました。一定の運動量でしか測れないなど、様々な制約がありました。そこで私たちは、一旦広がったミューオンビームを止めて、そこから加速し、指向性を高める方法を考えました」

ミューオン加速のどこが難しいのでしょうか。

「広がったまま加速したり徐々に減速・加速したり様々な方法が検討されていますが、私たちは一気に減速するという手法を取りました。特にミューオニウム負イオン(正ミューオンに電子が2個くっついた状態)を経由して冷やすという新しい手法を開発しました。試行錯誤の末に、昨年10月に加速に成功しました」

実験はいつごろ本格的に始まる予定ですか?

「現在MLF(※大強度陽子ビームから発生させた中性子とミューオンを利用する東海キャンパスの研究施設)でミューオンのビームラインを整備中です。基幹部は来年完成の予定です。そこから、ビームラインを延長して、マグネットを配置、ミューオンの加速器を作る、という流れで、予算が付けば約3年で測定を開始します。」

その実験が始まったら、何を確かめたいですか。

「まずは、本当に(理論の値と)ズレているのか確認したいです。そこから、その背景にある『究極の理論』を探っていきたいです」

なぜミューオンを専門にしようと?

「元々高松高専にいて、そこで出会った素粒子理論の先生に影響を受けました。なんだかとても楽しそうで(笑)。その先生に『素粒子理論をやるなら京大だよ』と勧められ、高専を3年で辞めて一般受験で京都大学に入学しました。学生の時は、ニュートリノのT2K実験に、卒業後東北大のニュートリノ実験・カムランドに参加していました。KEK素核研に来てからはミューオン実験に参加、現在はKEK加速器でJ-PARC加速器の運転に携わりながらミューオンの研究を続けています。」

今一番の楽しみは何ですか?

「ものづくりが好きで、自分の作った装置で初めて観測できた時はやはりうれしいです。あと、家で4歳と2歳の子どもが遊んでいるのを見ながらビールを飲むのが幸せです」

(聞き手 広報室・牧野佐千子)

大谷さんは、2018年11月17日(土)開催のKEK公開講座で講師を務めます。詳細はこちら

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研究者、ユーザー、技術者、事務系職員など、KEKに関わる人たちにインタビューし、その分野に興味を持ったきっかけや日々の生活のことなど、一般記事などでは伝えられない素顔に迫る企画連載です
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