【KEKのひと #32】性能の良い電池をつくるには? 米村雅雄(よねむら・まさお)さん

   

最近私たちの生活で欠かせないツールとなってきたスマホやパソコン。気が付いたら「電池がもうすぐ切れそう!」ということもよくあります。より長く使える電池にするにはどうしたら良いのか?過酷な環境下でも使える電池は作れないか?

中性子を使って電池の中を見て、解析することで、電池の性能の向上や新しい素材の開発につなげたい。そんな研究に打ちこむ物質構造科学研究所 特別准教授の米村雅雄さんに聞きました。

中性子で蓄電池の構造や組成を分析する装置「SPICA(スピカ)」を紹介する米村雅雄さん=J-PARCで

―どのような研究をされているのですか?

「一般に使われているリチウムイオン電池の中でどのような反応が起きているか、中性子を使って調べています。例えば自動車に電池を搭載する場合、マイナス30度の場所に行くことも想定しなくてはいけないし、直射日光でボディの中は80度に上がることもありますが、様々な環境下で電池がどう動くかを見る必要があります。また『革新電池』や『全固体電池』と呼ばれる次世代電池の研究・開発にも関わっています」

―中性子を使うのはなぜですか?

「中性子は透過性が高く、動作中のものを壊さずに見ることができます。リチウムイオン電池で、放電と充電する時のリチウムイオンの動きの違いなど、細かい電池内部での動作(反応)がリアルタイムで見えます。性能の改善のために、電池の中で何が起こっているのか解明するのはとても重要ですね。以前は電池を壊して電極を取り出して分析していました。そうすると、何が起きていたのか正しく見られないのです」

―全固体電池とはどのようなものですか?

「電池の構成要素である、正極、電解液、負極をすべて固体化したものが全固体電池です。単位体積あたりのエネルギー密度を大きくすることができたり、大電流を取り出したりすることができ、現在の電池システムよりも優れた点があります」

―なぜ電池の研究を?

「そもそもは、固体の中で物質が動くということに興味がありました。実際固体の中をイオンが移動していきます。この施設の中性子を使うと、実際にその様子を可視化することができます。固体中をイオンがなぜ動くのか、どうせ動くのなら極限までイオンを速く動かすにはどうしたらいいのかということに興味をもって研究をしています。そのようなイオンが固体中を動く材料を組み合わせると電池になります。イオンが動く材料の研究の延長線上に電池もあるわけです。ですから、自然に基礎的な物質研究と応用研究としての電池研究が一体化していきました。大学院を卒業するまではイオンが動く物質を主に研究し、ポスドクとしてKEKに来てから茨城大学を経て現職に就くまで、これまでの研究に加えて、電池研究に必要な中性子回折装置の開発とそれを使った研究推進に携わっています」

―回折装置の開発にも携わられているそうですね。

「固体の中をイオンが移動すると物質の構造が変化します。主に「結晶構造」という原子がきれいに並んでいる状態が、イオンの移動とともに徐々に変わっていきます。これを調べて、イオンが動く現象を解明していきます。物質研究は静的な構造で研究ができる場合が多いのですが、電池となると充電とか放電という動的な構造の変化を研究する必要があります。そういう研究を支援する分析装置として、特殊環境中性子回折計『SPICA(スピカ)』を開発しました。実用材料の研究開発とそれらの材料を使ってデバイス化した電池の両方の研究に利用できる大変優れた装置となっており、多くのユーザに利用してもらっています」

―どのようなことにやりがいを感じますか?

「自分の研究が人の役に立っていると思うと、やりがいを感じるし、おもしろいです。もともと物質を研究する『材料屋』としてのバックグラウンドがあるので、研究者がどういう分析装置を必要としているかもわかります。研究者のニーズもくみ上げられる『つなぎ役』として今後も高度な分析手法の開発という仕事ができればと思っています」

―ありがとうございました。

(聞き手 広報室・牧野佐千子)

◆米村さんは、6月30日(土)開催のKEK公開講座「J-PARCの中性子で観るエネルギー関連材料」で講師として登壇します

KEKのひと

研究者、ユーザー、技術者、事務系職員など、KEKに関わる人たちにインタビューし、その分野に興味を持ったきっかけや日々の生活のことなど、一般記事などでは伝えられない素顔に迫る企画連載です

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