重力波をとらえる望遠鏡KAGRA 日本発の低温技術が世界のスタンダードに

   

世界中で重⼒波への注⽬が加速度的に集まる中、世界で3 か所⽬となる⽇本の重⼒波望遠鏡KAGRA(カグラ)の本格稼働が、間近に迫っています。KAGRA で使われている極低温技術は、重⼒波望遠鏡としては世界初。今後、世界に広まろうとしています。

1台目のサファイア鏡とその低温懸架装置の設置完了を祝うKAGRA共同研究者(撮影:髙橋将太)

◇⽇本のKAGRA は世界の先頭を⾛っている

重⼒波は、簡単に表現すると「空間のゆがみ」のことです。ただ、重⼒波はとても小さく、それをとらえるのは銀河系の中でビーズ玉1つを探すようなものです。

そのような⼩さな重⼒波を観測するためには、「余計な振動をいかになくすか」が肝⼼です。トラックが近くを通過するときの揺れ、わずかな地殻変動など環境的な要因や、熱を持っていることですべての個体に起こる熱振動による観測装置⾃体の揺れが、かすかな重⼒波の信号をかき消してしまうためです。

KAGRA は、振動をなくす⼯夫として2つの点でほかの望遠鏡と違った特徴を持っています。

まず、望遠鏡の⼼臓部である鏡の熱振動を低減するため、サファイア製の鏡をマイナス253度の極低温に冷やすこと。⼤学の博⼠課程の時から20 年以上、この技術の開発に携わってきたというKEK 超伝導低温⼯学センターの都丸隆⾏准教授は、「静かに冷やすこと」と「効率的に冷やす材料の開発」を研究してきたと⾔います。研究チームは、様々な素材で試⾏錯誤を重ね、企業との連携のもと超⾼純度のアルミニウムと低振動冷凍機の開発に成功。超高純度のアルミニウムは、極低温で極めて大きな熱伝導を示し、室温のおよそ100倍にもなります。また、細い線を束ねる事で、振動の伝わりをおよそ1/40にできました。低振動の冷凍機はナノレベルまで低振動化。電子顕微鏡や物性測定装置などへも応用が期待できます。

これにより、KAGRA のチームが開発した極低温の技術は世界的に注⽬を集めています。都丸⽒は、次世代には極低温の鏡を使⽤しようという流れになっている世界の流れの中で「KAGRA は、重⼒波装置が極低温化される第⼀号。20 年以上かけて開発してきた極低温の技術がいよいよ結実するのです」と、本格稼働に向けた準備に⾶び回っています。

様々な防振、免振技術が施されているKAGRA望遠鏡の観測装置(撮影:高橋将太)

また、LIGO とVIRGO はいずれも地上にありますが、KAGRA は鉱山を有する地下トンネルを利⽤し、浅いところでも地下200 メートルの深さに位置します。地上では、夜間でも平均1 秒に0.1 マイクロメーターの揺れが起きていますが、硬い岩盤の静寂の中にたたずむKAGRA に届く揺れは、地上の100〜1000 分の1 まで低減されます。都丸⽒は「これは地上よりもずっと得です」と話します。

浅いところでも地下200メートルの深さに位置するKAGRA(撮影:高橋将太)

◇重⼒波で今までに⾒えなかった世界が⾒える

私たちが⾒ている宇宙は、これまでX 線、ガンマ線など、電磁波を使って観測してきました。電磁波は、電荷を持った物質の運動から発生するので、電磁波を発しないブラックホールそのものの観測はできません。また、銀河系の中心方向など明るすぎる領域の反対側を見る事はできません。そのため、重力波によってこれまでの⽅法でとらえられなかった世界が観測できるのでは、と期待されています。

KAGRA は、順調にいけば、来年度から試験運転を始め、2019年には本格的な実験を開始する予定です。LIGO が2015 年9 ⽉にはじめて観測した重⼒波は、13億光年かなたで太陽の数30倍の重さの2つのブラックホールが合体した際に出た⼤きな重⼒波です。これまでブラックホールの候補となる天体は数多く発⾒されてきましたが、これはブラックホールの周りに広がったガスから出されるX線の観測などよって推測されていたものでした。今回の重⼒波による観測は、初めてのブラックホールそのものの直接観測と⾔えます。これは重⼒波以外では難しいものです。

真空槽の中にインストールされている国立天文台(NAOJ)の開発した低周波防振装置。この低周波防振装置から極低温鏡の懸架装置が吊り下げられています(撮影:高橋将太)

2017 年8 ⽉、LIGO とVIRGO によって、2つの中性⼦星の合体によって発せられた重⼒波が検出されました。これは6例⽬の重⼒波の観測で、5例⽬まではすべてブラックホール同⼠の合体によって⽣じたものでした。中性⼦星同⼠の合体により、重⼒波が発⽣することは理論的に予測されていましたが、実際に検出されたのは今回が初めてです。この情報は、即座に世界中の観測グループに伝えられ、約70 の天体望遠鏡や天⽂衛星が、数週間にわたって発⽣源に向けられ、この重⼒波に対応するガンマ線、X 線、紫外線、可視光線、⾚外線、電波がとらえられました。

KAGRA が本格的に稼働開始となれば、LIGO とVIRGO とともに地球上の3 地点で重⼒波観測ができる「国際重⼒波ネットワーク」が完成します。これにより、重⼒波の発⽣源の特定など、これまでよりさらに⾼い精度での重⼒波の観測が可能になります。さらに重⼒波観測と電磁波観測が協⼒した「マルチメッセンジャー観測」が重要になってきます。

都丸⽒は「重⼒波は探すことはとても難しいが、今までわからなかった世界を⾒ることができる」と⼒説。⾃⾝も研究テーマとしている謎だらけの「重⼒とは何か」や、アインシュタインの相対性理論の検証、これまでわからなかった天体についてなど「重⼒波で知りたいテーマは⼈によってさまざま。いろいろなことが分かるようになってくるでしょう」と期待を膨らませています。

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