山本明名誉教授、紫綬褒章受章インタビュー

   

平成28年春の褒章において、KEKの山本明名誉教授が紫綬褒章を受章することになりました。 山本教授は約40年間、超伝導技術の分野に携わり、これまでに高エネルギー加速器、素粒子物理、そして宇宙粒子物理実験分野での超伝導技術応用の推進者として、様々な先進技術開発、国際協力プロジェクトに取り組んで来ました。

日本ではまだ超伝導伝技術応用が黎明期だった1970年代、KEK陽子シンクロトロン・超伝導ビームライン、TRISTAN-TOPAZ(トリスタン-トパーズ)実験等の粒子検出器用超伝導マグネットの開発に中心的役割を果たしました。 その後、科学観測気球による宇宙線観測実験(BESS)(※1)では、強度を高めた超伝導線材を新たに開発し、超伝導コイルを飛躍的に軽量化(低物質化)することにより、素粒子の透過性に優れた磁場空間を実現、国際的な研究成果を引き出しました。

1996年からは、国際協力により建設が推進された欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)(※2)で、高度な性能が求められる加速器ビーム衝突点及び粒子検出器(ATLAS)のための 超伝導磁石システムの開発を担いました。 そして、2007年からは、国際リニアコライダー(ILC)(※3)]計画の実現に向け、超伝導技術応用を中心として、国際協力による技術設計・研究開発をリードしてきました。

ーこのたびは、紫綬褒章ご受章おめでとうございます。まずは率直なご感想をお願いします。

「たくさんの方々とのチームワークの中で、技術を支える一員として、素粒子物理学の発展に技術支援の立場から貢献を続けてくることができました。 今回の受章は、技術によって科学を支えるチームの努力に評価を頂いたものと受け止めています。 これまで共に努力を重ね、またお世話になった全ての皆様に深く感謝いたします。 そして技術によって科学を支える皆様への励ましとなれば、とても有り難く思います。」

ーこれまでに様々な新しい技術の開発に取り組んでこられましたね。

「1949年に、理論物理学を通して日本人として初めてノーベル賞を受賞された湯川秀樹先生は、私達の世代にとって、『少年時代の夢の夢』の存在でした。 そのような気持ちを大切に胸に抱きしつつ、『宇宙がどのようにして生まれ、育ってきたのかを探る基礎科学』を、先端技術によって切り拓き、支える役割を追求してきました。 そのような立場に光を照らして頂けたことを、とても光栄に思っています。」

―1972年にKEKに若手技術者の一人としてKEKに入られたときには、どのような状況だったのですか。

「新天地であった「つくば」に飛び込み、KEKの初期計画陽子加速器・ビームライン建設に参加することができました。 そして、5年を経て完成後、本格的な素粒子物理実験が開始されました。 そして、理論と共に『加速器・実験分野において世界と勝負できる研究所』への発展を目指したTRISTAN計画が構想されました。 そして1977年に超伝導技術に取り組むプロジェクトが始動し、そのメンバーの一人に指名頂きました。 振り返ると、この機会を頂いたことが、超伝導技術応用をライフワークとして取り組みを続ける原点となりました。 その時、私たちの進むべき道を示して頂いた、木村嘉孝先生及び(故)平林洋美先生のご指導に深く感謝しています。

―超伝導磁石技術の分野から、9年前にはILC 計画における超伝導空洞技術開発をリードする役割に就任されました。これまでとは全く違う分野ということですね。

「それまで超伝導磁石の分野で30年間取り組んできましたが、9年前に当時の鈴木厚人機構長から国際リニアコライダー(ILC)の国際共同設計チームのプロジェクトマネージャーの役割を要請されました。 直線状のILCの中核装置となるのは「超伝導高周波加速空洞システム」で、これまでの円形の加速器で使う超伝導磁石とは、取り組む人を含め、必要な技術的センスも大きく違います。 自分が取り組むことになるとは考えてもいませんでした。 まだまだこの分野では、9年間の義務教育を終えた程度の初心者です。」

―この分野ではチームワークがとても大事で、チームをまとめる努力が評価され、指名されたたとお聞きしました。

「高エネルギーの研究分野は、計画も大きく、それぞれの装置も巨大です。 自分たちだけの力だけでは達成できません。他国の研究者ともファミリーのように連携し、情報交換をしあいながら研究に取り組んでいます。 これは、高エネルギー物理・加速器分野の素晴らしいところだと思います。 私自身も、その気持ちを大切にしてきました。」

―例えば「自分はこういうやり方をしたい」とそれぞれ違うやり方をしたい人たちがいた場合、それをまとめるにはどうすればよいのでしょう。

「分かりやすい表現として、実際の現場では、磁石は一人では移動することもできません。 全てに協力せざるを得ないんですね。 一つのプロジェクトとして推進させるためには、それぞれ自分の持っている良いところと他の人の良いところを、それぞれ潔く取り入れることが必要と思います。 それは一つの大きなプロジェクトを成し遂げる上での『宿命』であり、メンバーとは、ひたすらコミュニケーションを通して相互理解を深めなくてはなりません。 リーダー役を担うには、皆が尊重してくださる実績と経験も求められると思います。 そのためにはひたすら努力が必要です。」

―今後どのようなことに取り組んでいかれますか。

「私が取り組んできた9年間の間に、ILC 実現に向けたチームワークは着実に積み重ねられてきたと思います。 これからこの力がさらに高まるよう、次世代を担う現役の方々をサポートさせて頂きたく思っています。 これから日本が世界をリードし、貢献すべき分野は、『科学、教育、文化』であると信じます。 ILC 計画は、そのための起点、拠点となると信じ、日本がホストして実現できることを願っています。 最後に、これまで多くの苦労をかけてきた家族に感謝し、それを表したく思っています。」

略歴

1972年自由学園最高学部理科 卒業
1972年
1977年同 助手
1983年理学博士(東京大学・論文博士)
1988年同 助教授
1996年同 教授
2003年KEK低温工学センター長
2004年KEK共通基盤研究施設超伝導低温工学センター長
2007年ILC国際共同設計チーム(GDE)・プロジェクトマネージャー
2012年KEK ILC計画推進室長
2013年KEK名誉教授
特別教授
リニアコライダーコラボレーション・アジア地域ディレクター
2016年KEK加速器研究施設・研究員

用語解説

※1 宇宙線観測実験(BESS)

1993年から2008年にかけて、超伝導磁石技術を駆使した観測装置(BESS)を気球で高空(成層圏)にあげて宇宙線を観測し、その中から反粒子を探索することにより、ホーキングが予言した「原始ブラックホール」の蒸発現象、そして宇宙における物質・反物質の非対称性の直接的な検証など、「初期宇宙における素粒子現象」を探求した実験。

※2 大型ハドロン衝突型加速器(LHC)

全周約27kmに及ぶ円形トンネルの中で、加速され絞り込まれた陽子ビームを正確に正面衝突させて発生する様々な粒子を検出。 実験結果の分析から、「ヒッグス粒子」の存在が確認された。

※3 国際リニアコライダー(ILC)

全長30kmを超える直線状の地下トンネルの中に設置される大型の電子・陽電子衝突型加速器。 素粒子の質量の起源となるヒッグス機構やダークマターの正体の解明を始めとして、多くの素粒子物理学の未解決問題を解き明かすために、超高エネルギーの電子・陽電子の衝突実験を行う。

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(2016.5.2 更新)

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