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【ロンドン=蒔田一彦】英エディンバラ大は9日、質量の源となる素粒子「ヒッグス粒子」の存在を予想した英物理学者ピーター・ヒッグス名誉教授が8日に死去したと発表した。94歳だった。「短い闘病期間の後、自宅で死去した」としているが、病名は明らかにしていない。
1929年、英ニューカッスル・アポン・タイン生まれ。54年にロンドン大キングス・カレッジで博士号を取得し、エディンバラ大などで研究を続けた。
64年に、宇宙誕生後、物に質量を与えた素粒子の存在を予想する理論を発表した。後に「ヒッグス粒子」と呼ばれるようになり、2012年にスイスにある欧州合同原子核研究機関(
エディンバラ大は9日の声明で、「偉大な教師、指導者でもあり、何世代もの若い科学者に刺激を与えた」として功績をたたえた。
現代物理学の基盤である「標準理論」では、電子や光子など計17種類の素粒子があると予想され、ヒッグス粒子は未発見の最後の素粒子だった。12年にCERNで行われた実験には、世界各国6000人超の研究者が参加。多くの日本人研究者も関わり、科学史に残る発見に貢献した。
検出器の開発などに関わった東京大の石野雅也・素粒子物理国際研究センター長は「ヒッグス氏の理論は重要な予言で、偉大な科学者だった。確認が困難だったヒッグス粒子の発見で新しい学問の扉も開かれた」と話す。
高エネルギー加速器研究機構(高エネ研)素粒子原子核研究所の戸本誠副所長は06年から実験に参加し、検出器の組み立てなどを手がけた。戸本副所長は「本来の理論では素粒子は質量を持ってはいけないとされていた。ただ、ヒッグス氏は、誕生直後の宇宙空間でヒッグス粒子が満たされたことで素粒子が動きにくくなり、質量を獲得したという自然に説明できるシナリオを考え出した」と功績を解説する。
複数の研究機関からなる日本の研究グループは、現在もCERNで高精度に素粒子を測定する実験に参加。未知の素粒子の発見などを目指し、標準理論からのずれを探る研究を続けている。