機構長挨拶
電子や陽子などを加速する装置である粒子加速器は1930年代にその歴史が始まって以来、科学の発展にきわめて重要な役割を果たしてきました。原子核や素粒子の研究をはじめとして、物質や生命現象の理解にもなくてはならない研究手法を提供し、工業的利用や医療などの応用においても新しい手法を提供してきました。加速器の進展が近年の科学技術の進展を大いに後押ししてきたことは疑いの余地がありません。加速器は今もいくつかの重要な技術的側面において飛躍的な進展を遂げつつあり、これによって新しいサイエンスや応用研究のフロンティアを後押しする強力な駆動力としての役割を担っています。
高エネルギー加速器研究機構(KEK)はその設立以来、粒子加速器の研究開発とこれを用いた基礎科学研究において世界的な拠点の一つとして成長してきました。国内においては、大学共同利用機関として大学の研究者や大学院生に最先端の研究の場を提供し、わが国の学術レベルの向上に大きく貢献しています。国外からは毎年のべ2万人を越える研究者が来訪し、共同で研究を行うと同時に、世界中の若者が切磋琢磨する場ともなっています。
これまでこうした国内外の研究者との共同研究において、小林・益川理論の証明、多くの複合粒子の発見、ニュートリノ振動の解明など素粒子の理解を深める重要な成果が生まれ、放射光を用いた新奇超伝導体や創薬関連の蛋白質構造解析などの研究、大強度中性子などを用いた物質中の水素やスピン、そして電子などが引き起こす新しい性質についての研究など、物質・生命科学においても最先端の成果を挙げてきました。さらにこれらの成果を踏まえて、将来の研究計画についても盛んに議論が展開されています。日本に誘致することが検討されている国際リニアコライダー計画は、素粒子の世界を支配する未知の物理法則を探ろうとする意欲的な研究計画で、KEKをはじめ世界の素粒子物理研究者による国際グループによって提案され、現在、文部科学省に設置された委員会で多方面からの検討が行われているものです。
このたび、KEKの機構長に就任するにあたり、その任務は、現行の研究プログラムを効率的に推進して高い成果に結びつけることと、その先の魅力的な研究計画に道を開くことであると考えています。もちろんこのような科学研究は国民の理解と支持をいただいて成り立っていることに深く留意し、安全や法令遵守には十分配慮しつつ研究を進めることは言うまでもありません。
KEKは今後さらに加速器関連技術のフロンティアを推し進め、広範囲なサイエンスの世界的拠点としての役割を担い続けることによって、国民の皆さんが誇りを感じていただける研究機関として前進してまいります。
今後ともご理解、ご指導賜りますようお願いいたします。
平成27年4月1日
機構長 山内正則