機構長メッセージ

1930年代に加速器が発明されて以来、加速性能は、およそ1000万倍になり、科学の進歩を支える不可欠な技術となっています。素粒子・原子核の研究ばかりでなく、物質や生命現象の理解や、がん治療やタイヤ製造など、生活になくてはならない技術になってきました。調べることができる細かさはエネルギーの大きさ次第で、より細かく詳しく調べるには、高いエネルギーの光や粒子線が必要になり、加速器が重要になってきます。KEKでは、小林・益川理論の証明、ニュートリノ振動の解明など素粒子の理解を深める重要な成果が生まれ、放射光を用いた新しい超伝導体や創薬関連のタンパク質の構造解析、大強度の中性子ビームやミュオンビームを用いた物質中の水素が引き起こす新しい性質の研究など、物質・生命科学においても最先端の成果を挙げてきました。

加速器は今も飛躍的な進展を遂げ、新しい知見を切り拓くうえで大きな役割を担っています。皆さんを取り囲んでいる空気を取り除くと、「真空」になります。「まことのから」と書きますが、実は空っぽではなく、不思議なヒッグス場に満ちていることが最先端の加速器で発見されました。この真空が、ビッグバンや宇宙の進化に深く関係していることが分かってきました。「無用の用」の新しい知見が得られ、人類の知の地平が大きく広がりました。これをさらに進め、KEKは東京大学宇宙線研究所と協力して、「幽霊粒子」と呼ばれるニュートリノが、宇宙に満ちた物質を生んだ可能性を調べようとしています。

光ばかりでなく、電子、ミュー粒子(ミュオン)、中性子、陽電子などの粒子線を用いて、さまざまな物質の構造や化学反応のしくみが解明され、新機能を持った材料などの開発につながりました。今後はAIなどの新しい側面を加えて、もっと新しい物質や機能が発見されると期待しています。KEKに対して皆さまからお寄せいただいたご支援にあらためて感謝申し上げます。今後とも社会の一員としての責任を自覚しつつ、科学や応用技術の発展に力を尽く してまいります。

令和6年4月1日
浅井 祥仁

最終更新日 2024/04/02