2017年09月13日

【KEKのひと #16】「研究と向き合い、人と出会う」酒巻真粧子さん

歴史上の出来事や、目の前の現象、なぜこうなっているのだろうかと、物事の背景を考えるのが好きだ。競争は苦手。ゆっくりとひとつひとつ考えを組み立てていきたい。現在KEKの放射光科学研究施設(Photon Factory)で、ハードディスクの材料として使われている薄い磁石の研究を行う。高密度化、省エネ化など、ハードディスクの性能を上げることにつながり、実用化にも期待がかかる研究分野だ。

KEK物質構造科学研究所助教の酒巻真粧子さん(撮影:大島寛子)

競争が苦手なのは、幼少のころから。高校では数学と物理が好きだったことから、千葉大理学部へ進学した。X線分光の理論家だった教授が物語のように語ってくれる講義がおもしろく、その教授の研究室へ。企業への就職などは向かないだろうと思っていた。研究のプロセス自体が肌に合い、修士・博士と進学した。理論系の研究室ではあったが、磁性体や半導体など工学系のことに興味を持ち始めると、好きなように実験もさせてくれた。

現在の研究につながる磁性薄膜の解析を始めた修士2年生の時、研究室の准教授のつながりで新しい解析法の開発を行うドイツ・ベルリンのハーンマイトナー研究所(現ヘルムホルツセンター・ベルリン研究所)で1ヶ月ほど学ぶ機会があった。そこで出会ったクロアチア出身の女性研究者エリザベスさんは、好奇心旺盛で、先入観なく物事を理解しようとする人。拙い英語で話しかけても、全て受け止めてくれた。「こうであるはずという先入観なく、研究対象と向き合わなくては」。彼女との出会いによって、自身の研究姿勢にも影響を受けた。

ドイツ・ベルリンではエリザベスさん(左)と交流を深めた。ベルリンのハーンマイトナー研究所でドイツの研究グループと共同で発表したこの分野についての学会発表で、「目指しているところが近い」とKEKの雨宮健太教授に声を掛けられ、2009年にKEKに入った。2014年に助教となり、最近では設計から組み立て、データ取得、解析、論文を書き上げるまでの研究の一連の流れを一人でできるように。新しい技術が習得できることがうれしい。

今年4月には、この先の研究の方法を模索し、イギリス・マンチェスター大学を2週間ほど訪問した。ここで出会ったのは、中国、メキシコなど世界中から留学生を受け入れ、共に研究を進めていくウェンディ先生。物理、化学、工学、生物分野を分けず、自由な発想で学生のアイデアを大切にしながら、今までにない新しいものを作り上げていく。これまで生物学など苦手な分野を研究に組み合わせることなど考えてもいなかったが、「新しい発想で、今までなかったものを作り上げるような研究をしていきたい」と気持ちを新たにした。

とにかく研究すること自体が好き。クリスチャンではないが、科学の歴史にも重要な足跡を残す聖書に興味を持っている。つくば市の聖書や教会音楽を客観的に研究する私塾「バッハの森」に通い、バッハの宗教曲の合唱にも参加するようになった。一人で好きなことに没頭してしまう性格だが、研究を通じて人と出会い、刺激を受けてきた。ゆくゆくは自分の研究室を持って、学生と一緒に好きな研究をしていきたいと、思い描いている。

(広報室 牧野佐千子)

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研究者、ユーザー、技術者、事務系職員など、KEKに関わる人たちにインタビューし、その分野に興味を持ったきっかけや日々の生活のことなど、一般記事などでは伝えられない素顔に迫る企画連載です