新年あけましておめでとうございます。昨年一年間に皆様から寄せられたご支援にあらためて感謝申し上げるとともに、新しい年が皆様にとって実り多い一年でありますようお祈りいたします。
2017年年頭にあたって、まず基礎科学の重要性について考えてみたいと思います。このところ日本人が自然科学の分野でノーベル賞を受賞することが続いていますが、その受賞者の方々をはじめ、科学者だけでなくジャーナリストや企業経営者など多くの方々が基礎研究を充実することの重要性に警鐘を込めて発言されています。このような声はずいぶん前からあったのですが、その声は危機感の高まりに伴ってだんだんと大きくなって、昨年は一つの潮流を形作ったと思います。基礎研究が重要である第一の理由は、それが「無」から「有」を生み出す出発点になっていることです。昨今では世界的に経済の停滞が続いていることにも関係して、即座に経済効果に直結するような研究開発に注目が集まりがちですが、現在の技術革新はこれまでに蓄積した基礎研究の成果に負っていることを忘れるべきではありません。自然法則や自然現象、あるいは生物の細胞内で起きている現象といったことに対して人類がわかっていることはまだ非常に限られたものです。まずこのような基礎的な知識を広げてゆくことで次の時代の経済活動や生活を豊かにしてゆく知恵が生まれるものでしょう。このことは過去100年間の科学技術の進展を見れば明らかです。基礎科学は人間の持つ可能性を拡大することにこそ、その目的があります。
近年の基礎科学の目覚ましい発展にとって粒子加速器が大きな役割を果してきたことは疑いありません。加速器はその歴史が始まった1930年代から今日に至るまで、原子核や素粒子の研究だけではなく、材料科学や生命現象の理解にもなくてはならない研究手法を提供することによって基礎科学の進展をけん引してきました。KEKにおいてもこれまでに国内外の研究者の共同研究によって、素粒子の理解を深める重要な成果が生れ、放射光や大強度中性子などを用いた研究によって物質・生命科学においても最先端の成果を挙げてきました。加速器は今もいくつかの重要な点において飛躍的な進展を遂げつつあり、今なお新しい基礎科学や応用研究のフロンティアを後押しする強力な駆動力としての役割を担っています。わが国が今後も科学技術において高い先端性を維持し続けるためには、加速器技術を維持発展させて基礎科学の成果を積み重ねてゆくとともに、それを技術革新に結び付けてゆく組織とそこでリーダーシップを発揮する人材の育成を図ることが極めて重要であると考えます。これこそがKEKが次の時代に担う大きな役割であろうと考えます。
昨年の年頭のごあいさつで2016年はKEKの飛躍の第一歩になると述べました。建設がほぼ終了しているスーパーKEKBは昨年前半に第一期の試運転を終え、本格的な実験開始に向けての最終準備を行っています。放射光実験施設では共同利用のための運転が順調に続けられ、結晶構造解析などの成果が発表される一方、老朽化が進んだフォトンファクトリーの後継機の検討が進められています。東海キャンパスではハドロンホールの運転が継続され、ビーム強度を改善しながら、素粒子や原子核の研究において成果が出されています。ニュートリノ実験においてもデータを蓄積してニュートリノとその反粒子の性質の違いを解明するための実験が続けられています。MLFでは改善された装置を用いてさらに性能の向上が図られ、中性子やミュオンを用いた物質・生命科学実験が行われてきました。KEKが参加する海外の研究計画に目を向けるとCERNのLHCがそれまでより高いエネルギーで運転を続け、新しい現象の探索に向けてデータを蓄積しつつあります。また、国内外の素粒子物理学研究者が実現を望む国際リニアコライダー計画については日本政府による検討が続けられる一方、必要な技術開発やコスト低減を目指した検討などが国際的な研究グループによって意欲的に続けられています。
KEKにとって2017年は昨年の進展に引き続いて、飛躍の第二歩目を着実に進めることが最も重要となります。このような飛躍の先には新しい物理法則や自然現象の発見と理解が待ち受けていることが期待されます。また画期的な材料開発や医薬品の開発につながる成果も得られることでしょう。このようなKEKの未来に対して皆様のさらなるご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
2017年1月4日
機構長 山内正則