新年あけましておめでとうございます。
昨年一年間に皆様から寄せられたご支援にあらためて感謝申し上げるとともに、新しい年が皆様にとって実り多い一年でありますようお祈り申し上げます。
2016年年頭にあたって、「KEKで行われているような研究になぜ世界一であることが求められるのか」について考えてみたいと思います。
物理学、特に素粒子などの基礎物理学の研究においてはそれまでに誰も知らなかった考え方や現象を最初に見つけることが最も価値があることであると信じられています。誰も知らなかったことを知ってそれを広く共有することでさらに次の発見の引き金となり、知識の限界をどんどん広げることができます。知識が広がればそのなかでより根源的な自然法則が姿を現すことになります。人類はアリストテレスの時代からこのようにして自然の理解を深めてきました。このような科学の発展において、誰も知らなかったことを初めて知ることこそが最も大切であるという価値観はその発展を促してきた重要な駆動力であったと言えます。このことは基礎物理学に限ったことではありません。この駆動力はさまざまな材料やタンパク質など物質の根本的な構造や、化学反応のメカニズムの解明をもたらし、さらに、それらが新しい機能を持った材料や薬剤の開発につながってきました。すなわち、この価値観こそが現代の科学技術文明が築かれた根底にあった価値観であったということができます。
では、どのようにすれば「初めて知る」ことができるのでしょうか。方法は研究分野によって大きく異なりますが、KEKの研究分野では、それまではできなかった現象を実現してみせる加速器の存在が欠かせません。具体的には、これまでになかった高いエネルギーや、これまでになかった大強度など、世界一の性能を持つ加速器を実現することで、それまでに誰も知らなかった普遍的な自然法則を最初に見つけるということが、科学に貢献するKEKのあり方です。
昨年一年間を振り返ってみると、この一年はKEKにとって充電期間であったという言い方ができると思います。つくばキャンパスでは放射光実験が進められる一方、SuperKEKBの建設が最終段階を迎えています。東海キャンパスでは長期間シャットダウンされていたハドロンホールの運転が再開され、ニュートリノ実験と共にデータを蓄積しつつあります。物質・生命科学実験施設(MLF)では物質・生命科学実験が行われてきましたが、こちらは一部の装置の故障のため年の後半には停止を余儀なくされました。KEKが参加する研究計画に目を向けると、国内では、東京大学宇宙線研究所、国立天文台と共に進める大型低温重力波望遠鏡KAGRAの第一期実験施設がほぼ完成し、海外では、欧州原子核研究機関(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)がこれまでより高いエネルギーで運転を続け、新しい現象の探索に向けてデータを蓄積しつつあります。
以上のように、KEKの昨年が来るべき飛躍に向けて力やデータを蓄えた一年間であったのに対し、2016年はSuperKEKBが試運転を開始し、新たな目標に向けて本格的なスタートを切る年になります。放射光科学研究施設フォトンファクトリー(PF)ではこれまで通り構造解析の成果が次々と出てくるでしょうし、MLFでは改善された装置を用いてさらに性能の向上が図られるでしょう。LHCからは新しい物理現象の発見が伝えられるかもしれません。データを蓄積したニュートリノ実験やハドロンホールからも新しい結果が発表されるでしょう。また、将来の加速器計画についても検討が進んでおり、今後計画案についてお伝えする機会があろうと考えています。国際的な研究者組織の提案を受けて文部科学省で検討が進められている国際リニアコライダー(ILC)計画については、政府のゴーサインが出た場合にKEKとしてどう進めるかを検討し、「KEK-ILCアクションプラン」として年頭に公開しております。
このように2016年はKEKにとって飛躍の第一歩という年になると考えられます。皆様のさらなるご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
平成28年1月7日
機構長 山内正則
(2016.1.8更新)