KEK-CFF製超伝導加速空洞2号機、38MV/mの最大加速電界を達成

2017年2月17日

KEKでは、国際リニアコライダー(ILC)計画など超伝導加速空洞を多く用いる加速器の実現に向けて、製造技術の開発や、量産化に関する研究を行うために、空洞製造技術開発施設(Cavity Fabrication Facility, CFF)を運用しています。CFFは、機械工学センターの工作機械と併用することで、KEKの中だけで超伝導加速空洞を製作できる、という世界でも類を見ない特徴を持っています。超伝導加速空洞を多く用いた加速器の実現には、その量産化が不可欠ですが、KEKがその研究開発を行い、広くその技術を公開することで、製造する企業の開発にかかる時間やコストを削減し、結果として多くの企業が超伝導加速空洞の製造に参入することを可能にします。

超伝導加速空洞は、電子などの粒子を加速させるための装置である加速空洞に超伝導技術を用いることで、きわめて効率よく粒子を加速することができる装置です。この性能を示す2つの重要な指標に、「加速電界(Eacc)」と「Q値(Q0)」があります。加速電界とは、粒子が一定の長さを通過したときに受け取ることができる加速エネルギーです。加速電界が高くなると、加速器の性能が向上し省エネルギーを実現するだけでなく、加速器を短くすることができるので設置スペースやコストの削減にもつながります。Q値とは、一定の加速電界を実現するために必要な電力量を示す指標で、この値が大きいほど高い性能を示します。自動車で例えると、加速電界は加速する性能であり、数値が大きいほど加速が良いことを表し、Q値は数値が大きいほど燃費が良いというイメージです。

このたび、KEK-CFF製超伝導加速空洞の2号機(KEK-2号機:図1)が完成、性能試験において、加速電界、Q値の両方で前回製作したKEK-1号機を上回るとともに、ILC加速器用加速空洞の評価基準値である35MV/mを満たす、最大加速電界Eacc=38メガボルト/メートル(MV/m)(Q0=9×109)を達成、超伝導加速空洞の量産化に向けて大きく前進しました。ILCの加速器は、31.5MV/m以上の加速電界で運転することが求められていますが、加速空洞をクライオモジュールと呼ばれる低温状態を保つ容器に入れる際には、ビーム運転に備えて余力を持たせるために、加速空洞単独で測定する際には、運転時よりも高い35MV/mの性能を出すことがILC仕様として定められています。

図1 ILC用9セル超伝導加速空洞(KEK-2号機)(長さ1.3メートル)

図2 LGニオブ材(直径290ミリメートル)。大理石のような模様は、大きな結晶の粒によるものです。
超伝導加速空洞はニオブという、超伝導状態になることができる金属を使って製作されますが、粒子を加速するために重要な「セル」というふくらんだ部分を成型するためには特殊な技術が必要です。
KEK-1号機は、ニオブの地金を叩いて圧力を加える鍛造という作業を行い、中に含まれる結晶の粒をFine Grain(FG)と呼ばれる100マイクロメートル(㎛)以下のサイズまで細かくした後、ローラーで圧力をかけながら板状に伸ばす圧延という作業を行ってから、プレス加工して製作しました。一方KEK-2号機では、加工にかかる費用を減らすため、ニオブの地金をマルチワイヤーソーという、半導体用シリコンの切断にも使われる精密機械で板状に切断してから、プレス加工を行いました。この方法にはもう一つ利点があり、鍛造と圧延の作業を省略することで、地金の中心部にあるLarge Grain(LG)という150ミリメートル(㎜)程度の大きな結晶を保ったままの材料(LG材:図2)を製作することができます。
図3 電界性能試験(たて測定)結果のグラフ。赤い点で示されるように、LG材を利用したKEK-2号機は、加速電界(Eacc)とQ値(Q0)どちらも向上しています。
LG材を使った加速空洞は、FG材のものと比較してQ値の性能が向上するということが、国外の研究機関から多く報告されています。CFFでも2013年に、LG材を使って、1つのセルをもつ加速空洞(R1号機)を作り、性能向上を確認しました。このときに得られた経験をもとに、LG材に適した製造上の工夫を加えてKEK-2号機を製作しました。

加速空洞の内側に小さな穴状のへこみ(ピット)や他の金属の細かい粒(介在物)があると、充分な性能が出ないので、完成した加速空洞は、超伝導加速空洞試験施設(Superconducting RF Test Facility, STF)において、電解研磨など内側を滑らかにする加工を行ってから性能試験を行います。期待する性能が出ない場合は、内側の表面状態を確認し、原因となる部分を見つけて取り除き、再度内面処理を行ってから性能試験を行います。図3は、4回目の試験結果です。

加速空洞の性能試験とその後の一連の作業には、時間と費用がかかるため、ILC仕様では2回までと決められています。今回は研究のために、4回実施して、良好な結果に到達することができました。今後は1回目の試験で期待する性能が得られるように、加速空洞の製造品質を高めていきます。

図4 完成したKEK-2号機を前にして


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関連サイト
KEK機械工学センター
CFF(空洞製造技術開発施設)
空洞製造技術開発施設の建設
超伝導に関連した開発研究