SuperKEKB加速器のビーム周回・蓄積成功

2016年3月2日

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構




【今回の成果のポイント】

5年間の大改造工事を終えた電子・陽電子衝突型加速器SuperKEKBは、このたびその試験運転を開始し、その重要な第一ステップである、直径1 kmの電子リングおよび陽電子リングでのビーム周回・蓄積に成功しました。


【概要】

大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、2010年後半より高度化改造を行ってきた電子・陽電子衝突型加速器、SuperKEKB加速器の試験運転を2016年2月1日より開始、電子・陽電子それぞれを蓄積して衝突させる二つの円形加速器(リング、周長3 km)の調整を進め、2月10日に陽電子リング、続いて2月26日に電子リングにおいて、改造後初めて、継続してビームを周回させること、すなわちビームの蓄積に成功しました。

今後は、加速器の調整を続けた後、アップグレードされたBelle II測定器※1および新しい超伝導収束電磁石を衝突点に配置して、電子・陽電子ビームの衝突実験に向けた衝突調整を実施します。

SuperKEKB加速器は、世界でまだ実用化されていない「ナノビーム大角度交差衝突方式※2」を採用し、衝突点におけるビームサイズを前身のKEKB加速器の1/20に絞り込むとともに、蓄積ビーム電流をKEKB加速器の2倍に高めて、KEKB加速器の40倍の衝突性能を実現。KEKB加速器の数十倍の物理実験データを蓄積することにより、宇宙の発展過程で消えた反物質の謎に迫り、新しい物理法則の発見を目指します。

【背景】

SuperKEKB加速器の前身であるKEKB加速器は、2001年に世界最高のビーム衝突性能(ルミノシティ※3)を実現し、国際共同研究組織Belleグループ※4による電子ビームと陽電子ビームの衝突実験で生み出された大量のデータの解析結果から、B中間子におけるCP非対称性※5の発見による小林・益川理論の実験的検証を行うなど、素粒子物理学および加速器科学の発展に貢献してきました。

この小林・益川理論は、1964年に実験により発見された物質と反物質の違いを説明するものです。宇宙の始まりに物質と同じだけ存在したはずの反物質が現在自然界に存在しないことからも、違いはあって当然ですが、小林・益川理論だけでは、反物質が存在しない理由を完全には説明しきれないため、さらに実験データ量を増やし、新たな研究を行う必要がありました。

【今回の成果】

そこでKEK加速器研究施設の研究グループは、2010年6月にKEKBの運転を終了した後、実験データを増やすための衝突性能をさらに飛躍的に高めるSuperKEKB加速器への高度化に着手しました。そして、既存の設備を最大限に活用しながら、周長3,016 mの電子リングおよび陽電子リングをアップグレードするため、新型ビームパイプへの更新、電磁石および電磁石電源の更新・増設、高周波加速システムの増強などの改造を行ってきました。また、長さ600 mの電子・陽電子線形加速器(入射器)については、電子・陽電子源の改造や、加速器を構成する電磁石等を高精度で一直線に配置するアライメントの精度向上などにも取り組んできました。 

SuperKEKB加速器では、粒子の軌道を制御する電磁石や粒子にエネルギーを与える加速空洞等の機器を用いてビームパイプの中で電子の塊と陽電子の塊を周回させており、目的とする実験を行うためには、多数の電子・陽電子の塊をそれぞれのリングに安定して蓄積させることが必要です。電荷を持つ電子・陽電子の塊がリング内をほぼ光の速さでビームとして移動し、それが電流値として検出されます。

円形加速器の調整に先立ち、今年に入ってからは、1月末より入射器の調整を行った後、円形加速器に至るビーム輸送路、円形加速器の陽電子リング、電子リングの順で調整を進めてきました。先に試験運転を開始し、2月10日にビームの周回・蓄積に成功した陽電子リングでは、既に100 mAを超える電流の陽電子ビームを安定して蓄積しています。

そしてこのたび、2月26日に、電子リングについても、ビームの周回・蓄積に成功しました。

【今後の展開】

本年6月まで予定される運転(フェーズ1)においては、低エミッタンスビーム※6を安定して蓄積するための加速器の調整を行うとともに、ビームによる脱ガス、すなわちビームから発生する放射光によってビームパイプ中の残留ガスをたたき出して表面を清浄にし、高真空にするなど、Belle II測定器を衝突点に導入できる状態にするため、円形加速器をさらに調整していきます。

一方、KEK素粒子原子核研究所がホスト機関として中心となって組織してきた国際共同研究組織 Belle IIグループによって、より大量のデータをさらに詳しく解析できるように改造中のBelle II測定器を構成する検出器の組み上げが進められており、フェーズ1運転終了後にBelle II測定器が衝突点に導入される予定です。これに先立ち、フェーズ1では、衝突点に7種類の小型センサーを備えたBEAST測定器※7を設置し、軌道をはずれたビームが作る電磁シャワーが測定にどのような影響を及ぼすかを調べる実験を行います。

このBelle II測定器の導入と並行して、SuperKEKB加速器の衝突点でビームを数十ナノメートルのサイズにまで絞り込むための衝突点用超伝導収束電磁石を設置し、2017年秋からはビームを絞り込み、衝突性能を高めるためのビーム調整(フェーズ2)を行う予定です。また、フェーズ2運転からは、陽電子ビームのエミッタンスを陽電子リングに入射する前に十分低くしておく必要があります。このため、周長135 mの陽電子ダンピングリングを新設し、現在、完成したトンネルや建屋への、加速器機器の据付けおよび立上げ調整作業を進めています。

SuperKEKB加速器でのビーム衝突によって生み出されるデータはKEKB加速器に比べて数十倍に達する予定で、Belle II測定器によって測定される大量のデータを解析することにより、宇宙初期に起こったはずの極めて稀な現象を多数再現し、宇宙の発展過程で消えた反物質の謎に迫り、標準理論を超える新しい物理法則の発見・解明を目指します。

【お問い合わせ先】

<研究内容に関すること>
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
加速器研究施設 教授/加速器第三研究系研究主幹
赤井 和憲(あかい かずのり)

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
加速器研究施設 教授/加速器第四研究系研究主幹
小磯 晴代(こいそ はるよ)
 
<報道担当>
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
広報室長 岡田 小枝子(おかだ さえこ)
TEL: 029-879-6046/080-1359-2730
FAX: 029-879-6049
E-mail: press@kek.jp

【用語解説】

※1 Belle II 測定器
SuperKEKB加速器で加速された電子と陽電子が衝突して起こる反応から生じる粒子について、その種別や運動量などを測定するための測定装置。KEKB加速器で使用されたBelle測定器を改造し、高性能化したもの。縦横高さ約8m、重さ約1,400トン。

※2 ナノビーム大角度交差衝突方式
イタリア国立原子核物理研究所のP. Raimondi博士(現在はヨーロッパシンクロトロン放射光施設)が発案した、衝突点で二つのビームを大きな角度で交差させて衝突させる新たな衝突方式。SuperKEKB加速器はこの衝突方式を採用し、約5度の交差角をもつ。従来の正面衝突や小角度交差衝突方式においてバンチの長さ全体にわたって衝突することから生じる「砂時計効果」による制限が、この方式においては大幅に緩和されるため、衝突点でより小さく絞り込むことが可能。

※3 ルミノシティ
衝突型加速器の衝突性能を表す指標。ルミノシティに衝突断面積(衝突反応の種類によって決まる一定の数値)を掛けると衝突反応の頻度が得られる。ルミノシティが高いほど多くの衝突反応データが得られ、稀な現象を詳しく調べることができる。

※4 国際共同研究組織 Belleグループ
Belle 測定器を建設、運転・維持し、ビーム衝突のデータを取得・解析、物理的な知見を得るために結成された組織。Belle グループをベースに、Belle II 測定器を建設、運転・維持、ビーム衝突のデータを取得・解析、物理的な知見を得るために結成されたのがBelle IIグループであり、H28年2月現在、23カ国・地域から600名を超える研究者が集まっている。

※5 CP非対称性
粒子と反粒子は電荷の符号を除いて基本的には同じ性質を持つが、それらの振る舞いが異なる場合、CP非対称であると呼ぶ。小林・益川理論はこれを説明する理論。

※6 低エミッタンスビーム
広がりの小さなビームのこと。エミッタンスとはビームを構成する粒子の空間的な広がりがいかに小さく、かつ向きが揃っているかを表す指標。光の場合、完全な平行光線はレンズで一点に絞ることができるのと同様、エミッタンスの低いビームは電磁石を用いて衝突点で小さく絞ることができる。高ルミノシティを達成するためにはビームを低エミッタンスにすることが必要。

※7 BEAST測定器
新しい加速器が安定に動作するまでの間、貴重なBelle II測定器をビームによって棄損してしまわないよう代わりに設置する、ビームに起因するバックグラウンドを測定することに特化した測定器。

【参考図】図1 SuperKEKB全体図

図2 2015年秋のSuperKEKB加速器における電子・陽電子衝突点の様子。現在はコンクリートシールドで加速器のビームラインが覆われている。奥側にBelle II測定器が見える。

図3 衝突点(図2)からリング半周分、約1.6km離れた富士直線部のSuperKEKB加速器トンネル内。左側手前から奥に続く、青色の電磁石が並んでいるラインが電子リング。右側ラインの奥には陽電子リング用の高周波加速空洞を配置。右側の壁横から陽電子ビーム輸送路が陽電子リングに合流している。

図4 ビーム蓄積成功時のビーム電流波形。
(左上):陽電子リングの蓄積前、(右上):蓄積後。
(左下):電子リングの蓄積前、(右下):蓄積後。
横軸時間スケールは左右の図で異なり、右の図ではより長い時間のデータが表示されている。2月1日に試験運転を開始した後、まず、電子・陽電子を加速するための高周波電力を投入しない状態で、ビームがリングを数十ターン周回するよう、リングを調整した(左上下の図:黄色の信号波形がビーム電流信号)。この後、高周波電力を投入して調整し、ビームがリングを周回し続けて保持・蓄積された(右上下の図)。