高精度アライメントのための長基線レーザーによる500 m級直尺の実用化に成功

2013年09月17日 プレスリリース

平成25年9月17日

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構


【本研究成果のポイント】

・市販の部品によって構成された簡便なレーザー装置を用い、これまで達成が困難であった長距離(500 m)における、加速装置を高精度で一直線上に設置する技術(高精度アライメント技術)を世界で初めて実現
高精度アライメント※1技術の実現により、KEKB加速器の高度化※2に必要とされる、安定した電子、陽電子ビームの入射が可能に
今後の長距離線形加速器への応用のみならず、ダム事業、トンネル構築、堤防建設など、高精度な長基線を必要とする大規模土木事業などの産業応用にも大きく貢献するものと期待

【概 要】

高エネルギー加速器研究機構(KEK)の諏訪田 剛(すわだ つよし)准教授、産業技術総合研究所の寺田 聡一(てらだ そういち)主任研究員を中心とする共同研究グループは、市販の部品によって構成された簡便なレーザー装置を用い、従来の技術では達成が困難であった長距離(500 m)において、加速装置を高精度で一直線上に設置することができる技術(高精度アラインメント技術)を世界で初めて実現することに成功しました。

現在KEKではKEKB加速器と呼ばれる電子・陽電子衝突型加速器を高度化し、改造する計画を進めています。KEKB加速器を用いた実験では、安定した入射ビームとして電子と陽電子を加速・輸送し、できるだけ効率的にリングに供給する必要があります。そのためにはリングにビームを入射するための電子・陽電子線形加速器(入射器)を構成する多数の加速装置を、最長直線部の500 m長にわたって、高精度で一直線上に並べなければならず、その直線の基準となる長い直尺(長基線)が不可欠です。

研究グループは今回、長基線としてレーザーを利用し、レーザーの入射角度を安定化させるために光学レンズ用のステージを自動制御により微細に制御して、高い安定度をもった500 m長のレーザー長基線の生成に成功しました。

今回の成果は、KEKB加速器の高度化に必要な入射器の性能向上に貢献するのみならず、今後の長距離線形加速器における高精度アライメントへの応用にもつながります。さらにはダム事業、トンネル構築、堤防建設など高精度な長基線を必要とする大規模土木事業などの産業応用にも大きく貢献するものと期待されます。

本研究成果は、米国学術誌『Review of Scientific Instruments』オンライン版(2013年9月16日:米国東部時間)にて公開されました。
※オンライン版掲載日について改訂いたしました。(2013年9月17日)


論文名:Propagation and stability characteristics of a 500-m-long laser-based line for high-precision laser-based alignment of long-distance linear accelerators
(長距離線形加速器の高精度アライメントのための500 m長レーザー長基線の伝送及び安定性特性)

著者:T. Suwada, M. Satoh, S. Telada, K. Minoshima

【背 景】

現在、KEKでは、2008年度の小林誠・益川敏英両博士のノーベル物理学賞受賞に貢献した、KEKB加速器と呼ばれる、世界最高性能の電子・陽電子衝突型加速器を高度化し、約40倍の性能をもつ加速器へと改造する計画を進めています。このKEKB加速器を用いた実験では、70億電子ボルトの電子と40億電子ボルトの陽電子を衝突させ、膨大な数のB中間子を生成し、それらのB中間子群の崩壊現象から生じる様々な高エネルギー素粒子反応を検証することを目的にしています。KEKB加速器は、電子と陽電子を入射する電子・陽電子線形加速器(入射器)と、その電子と陽電子を衝突させるリングから構成されます。実験では工場のように大量にB中間子を生成させる必要があるため、いかに多くの電子と陽電子を効率良くリングに供給するかが重要になります。

全長600 mの入射器の最長直線部は500 mにも及びます。リングに効率よく電子と陽電子を入射するためには、入射ビームの安定した加速・輸送が欠かせません。これを実現するには、入射器を構成する多数の加速装置を一直線上に並べる必要があります。

ところが、加速装置を長距離にわたり直線的に床に並べて行くと、地球の丸みの影響を受けて500 m先では始点に比べ約20 mm垂れ下がってしまいます。そのため長距離にわたって加速装置を一直線上に設置するには、その基準となる長い直尺(長基線)が必要となるのです。ですが500 m長の高精度な直尺は簡単には実現できません。

従来では、テレスコープなどを利用した光学的な測量方法に基づいたアライメントが行われています。しかし、この方法では一度に測量できる距離は10~20 mに限られます。長距離線形加速器のアライメントを行うには、加速器に沿って測量装置を移動させながら何度も測量を繰り返す必要がありますが、1回の測量ごとに誤差が蓄積されてしまい、加速装置を高精度で一直線上に設置するには限界がありました。

そこで研究グループは、長基線としてレーザーを利用することにしました。レーザーの特性の一つは真空中で直進することです。この性質を利用すればレーザーを長基線として応用することができます。この長基線を頼りにすれば、長距離線形加速器の加速装置を高精度で一直線上に設置することができます。

【研究内容と成果】

レーザーを利用した長距離線形加速器の高精度アライメント技術は、1960年代末に米国スタンフォード国立加速器研究所のハーマンズフェルト博士らにより3 km長の電子線形加速器に応用されました。この方法ではフレネルレンズと呼ばれる特殊なレンズが加速装置に取り付けられています。このレンズにレーザーを照射し、加速器終端でレーザーを集光するように焦点距離を調整しておけば、アライメントの基準となる輝点が形成されます。この方法では長基線の代わりに、この輝点がアライメントの基準となります。

しかし、フレネルレンズを使用するためには特殊な加工が必要であり、本研究のように簡便にアライメントを行うことは困難です。

研究グループは、2010年度から共同開発研究を開始しヘリウム-ネオンレーザーを利用した長基線レーザー光学系の開発に着手、レーザー光学系の安定度を高めることにより、入射器の500 m長直線部に対して、高精度アライメントを可能にするレーザー装置を開発しました(図1)。本研究では、レーザーの入射角度に対し微細な調整が可能なレーザー光学系(図2)、レーザーが通過する輸送路全長を真空にする技術及び、入射角度を長時間にわたり安定化させるための自動制御技術を独自に開発しました。本研究のレーザー光学系と光学系の自動制御技術は独自に開発されたものですが、全ての装置は市販のもので特別な装置を必要としません。

開発の結果、レーザーの入射角度は±0.08 μrad※3の範囲内に安定化されていることが明らかになりました。入射器の500 m終端で得られた長基線レーザーの形状は、図3に示す通りです。レーザーの入射角度を安定化させるために光学レンズ用のステージを自動制御により微細に制御したところ、500 m長のレーザー長基線であっても、水平位置分布、垂直位置分布ともに非常に安定しており、500 m級直尺として±40 μm※4(標準偏差で表した値)という高い安定度を達成しました(図4及び図5)。

【本研究の意義、今後への期待】

本成果は、レーザー長基線を利用して世界で初めて500 m長の直尺を実現したものであり、長距離線形加速器の高精度アライメント技術に応用可能であることを実証したものです。本装置は、今後の長距離線形型加速器への応用のみならず、ダム事業、トンネル構築、堤防建設など高精度な長基線を必要とする大規模土木事業などの産業応用にも大きく貢献するものと期待されます。

【お問い合せ先】

<報道担当>
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
広報室 報道グループリーダー 岡田 小枝子(おかだ さえこ)
TEL: 029-879-6046
FAX: 029-879-6049
E-mail: press@kek.jp

【用語解説】

※1:高精度アライメント
直線や円形など特定の形状に沿って機器を高精度に設置する技術。

※2:KEKB加速器の高度化
2008年の小林誠・益川敏英両博士のノーベル物理学賞受賞に貢献した、KEKB加速器と呼ばれる電子・陽電子衝突型加速器のビーム衝突性能を約40倍に高度化することにより、ビッグバン直後の宇宙初期にしか起こらなかった極めて希な現象を多数再現し、新しい物理法則を発見・解明するとともに、宇宙の発展過程で反物質が消え去った謎の解明を目指す。2015年度の本格稼働を目指して現在準備が進められている。

※3:μrad(マイクロラジアン)
1マイクロラジアンは約6×10-5度。

※4:μm(マイクロメートル)
1マイクロメートルは千分の1ミリメートル。

【参考図】

図1 電子・陽電子線形加速器(入射器)の500 m長直線部に並んだ48台の加速装置
加速装置の両端には高精度な光センサーが取り付けられている。レーザー装置から出射したレーザーは、長基線を形成し500 m長の直尺となる。レーザー長基線が光センサーの中心に一致するように加速装置を機械的に調整すれば、48台の加速装置を精度よく一直線上に並べることができる。

図2 独自に開発されたレーザー光学系
レーザー管から出射したヘリウム-ネオンレーザーは幾つかのレンズやミラーによりレーザー径が徐々に拡大され、真空窓で仕切られた金属パイプに入射し500 m長のレーザー長基線を形成する。

図3 500 m終端における長基線レーザーの形状

図4 500 m終端におけるレーザー長基線の水平及び垂直位置の時間変化

図5 500 m終端におけるレーザー長基線の(a)水平位置分布と(b)垂直位置分布

関連サイト

高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設
産業技術総合研究所 計測標準研究部門
Bファクトリ (KEKB)
電子陽電子入射器 (LINAC)

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