T2K実験、電子型ニュートリノ出現現象の存在をより確実とする

-第25回ニュートリノ・宇宙物理国際会議(Neutrino2012)開催-

2012年6月27日

中家剛 京都大学教授が代表しT2K実験の最新結果を発表しました2012年6月3日(日)-9日(土)の7日間、第25回ニュートリノ・宇宙物理国際会議(Neutrino2012)が京都で開催されました。本会議はニュートリノ物理学研究における世界最大の国際会議で、世界各地を開催地としながら2年ごとに実施されています。日本で開催されたのは今回が3回目であり、前回(1998年)岐阜県高山市で開催された際にはスーパーカミオカンデによるニュートリノ振動の発見が世界で初めて報告されました。

この報告により、3世代あるニュートリノがごくわずかな質量の差を持ち、お互いに混合していることが、世界で初めて明らかになりました。以来、ニュートリノ振動をめぐる研究は国際間の熾烈な競争の中、急速に発展を遂げてきました。今回の会議では、最後に未測定で残っていた1-3世代間の混合角(θ13)について、大強度陽子加速器施設J-PARCとスーパーカミオカンデを用いるT2K実験(東海-神岡間長基線ニュートリノ振動実験)の結果をはじめ、フランスのDouble Chooz(ダブルショー)実験、中国Daya Bay(ダヤベイ)実験、韓国RENO(レノ)実験でのニュートリノ振動測定の結果発表が行われました。そして、θ13が予想外に大きいという事実が明らかになるという、本会議での大きな成果が得られました。

T2K実験は2011年6月、世界で初めてミュー型ニュートリノが電子型ニュートリノへ振動したことにともなう電子型ニュートリノ出現の兆候を捉えたことを発表しています。当時の発表では電子型ニュートリノ出現とされる事象数は6事象でした。今回の国際会議では、2012年5月15日までのデータを解析したところ電子型ニュートリノの事象数が昨年より4事象増えて10事象に及んだことを報告しました。バックグラウンドの統計的揺らぎにより10個以上の事象が得られる確率は、0.08%の極めて小さな値です。すなわち、電子型ニュートリノ出現がおこった確率は99.92%となり、電子型ニュートリノ出現現象の存在がより確かになってきました。

Double Chooz(ダブルショー)実験、中国Daya Bay(ダヤベイ)実験など最近相次いで発表された原子炉実験から得られたθ13に関する精密測定の結果は、今回のT2K実験の結果ともよく合っています。原子炉実験は反電子ニュートリノの消失事象に基づいていますが、T2K実験の結果はミュー型ニュートリノの電子型ニュートリノへの振動による、電子型ニュートリノ出現現象を示しています。電子型ニュートリノ出現現象はCP対称性の破れの探索にとり重要な要素です。T2K実験の今回の結果はニュートリノと反ニュートリノとで異なる振動を引き起こす要因とされる、ニュートリノにおけるCP対称性の破れ探索の扉を開き、宇宙で物質が反物質より優勢になっていることの謎を探る鍵となる可能性を秘めています。

会議には世界各国から多くの研究者が訪れました他にも、ニュートリノの生成を伴わない2重ベータ崩壊の検出を目指すKamLAND-Zen(カムランドゼン)実験や南極の氷を用い宇宙からのニュートリノの測定を行っているIceCube(アイスキューブ)実験などニュートリノ物理学及び宇宙物理学にまつわる国内外で行われる多数の実験の研究結果や理論の発表が行われました。尚、2011年9月に超光速ニュートリノの発表で世界を驚かせたOPERA(オペラ)実験ですが、測定精度を高めた再実験の結果、ニュートリノの速度は光速と誤差の範囲で同じだったとして、本会議において「超光速」の当初報告を撤回しました。

今回の会議には600名以上にのぼる研究者が国内外から訪れ非常に活気のある国際会議となりました。国際会議開催にあたっては、日本学術会議、日本物理学会など内外の多くの学術団体、企業からの支援があり、会議冒頭では日本学術会議副会長の春日文子氏が挨拶を行いました。また、野田内閣総理大臣からのメッセージも読み上げられました。

会議初日には2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏が地域の方向けに講演会を行いました。小柴氏はカミオカンデでの研究のエピソードを中心としてニュートリノが我々の存在にとっていかに重要な働きをしたのかを易しく語りかけていました。講演会には幅広い年齢層の方が訪れ、小中高生といった若い世代からも質問が相次ぎました。

研究者向け会議の冒頭には、1962年ミュー型ニュートリノを発見した功績により1988年にノーベル物理学賞を受賞したJack Steinberger氏(91歳)によるニュートリノ実験研究の草創期について講演が行われました。また、小林誠 KEK特別栄誉教授(2008年ノーベル物理学賞受賞)は名古屋大学の坂田昌一氏らがニュートリノ振動の理論を世界で初めて提唱した背景について、詳しく紹介しました。

1988年にノーベル物理学賞を受賞したJack Steinberger氏による講演

ポスター会場でも活発な議論が行われました

このように、7日間におよんだ会議では、ニュートリノ研究の草創期についての講演から、ニュートリノ振動パラメータについての最も新しい結果の発表・検討、更にニュートリノ物理学研究における将来計画や検出器開発等についても発表が行われました。そして今回の会議で示された1-3世代間の混合角(θ13)が予想外に大きかったという事実により、ニュートリノでもCP対称性の破れの測定が出来る可能性が広がることとなりました。一層の研究の進展とニュートリノ研究に対する社会の関心が高まることが期待されます。

関連サイト

Neutrino2012