新種の重たい「エキゾチックハドロン」を発見

2012年1月10日

Belle実験国際コラボレーション
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構

【本研究成果のポイント】
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)の電子・陽電子衝突型加速器(KEK Bファクトリー:KEKB)※1を用いたBファクトリー実験において、ボトム・クォークを含む新種のハドロン粒子※2を発見した。この新粒子は電荷を持ち、4個以上のクォーク※3が結合してできたハドロン粒子(「エキゾチックハドロン」)と考えられる。同実験では、以前からチャーム・クォークを含むエキゾチックハドロンの発見が相次いでいたが、今回の発見は、4個以上のクォークが結合したエキゾチックハドロンが、ボトム・クォークを含む粒子系にも存在することを明らかに示したものである。


KEK Bファクトリーを用いたBelle実験グループ※4は、新種の粒子を発見した。Zb (ゼットビー)と名付けられたこの新粒子は、6種類あるクォークの中で質量が2番目に重いボトム・クォークとその反粒子である反ボトム・クォークを含む。さらにこの粒子は電荷を持ち、ボトム・クォークと反ボトム・クォーク以外に最低限2個のクォーク(合計で4個のクォーク)が結合したハドロン粒子であると考えられる。

Bファクトリー実験では、世界最高ルミノシティー※5を有するKEKB加速器を用いて、大量の電子・陽電子の衝突による素粒子反応データが収集されたが、その中には、加速器の衝突エネルギーを通常よりも約2.7%上げたデータも取得されている。今回、この高いエネルギーで取得したデータから、まずボトム・クォークと反ボトム・クォークが結合した「ボトモニウム」※6と呼ばれる中間子に着目し、ウプシロン(Υ)とhb(エイチビー)と呼ばれるボトモニウム中間子を含む事象に対し詳細な解析を行った。その結果、ボトモニウム中間子(Υやhb)と荷電パイ中間子(π)に崩壊する電荷を持った新粒子が2種類生成されていることがわかった。これらの粒子は、その質量値を用いてZb(10610)およびZb(10650)と名付けられ、陽子の約11倍の質量を持つ。ボトモニウム中間子の電荷はゼロなので、電荷を持つZb粒子は少なくともあと2種類のクォーク、例えばアップクォークと反ダウンクォークを持つ(図1)。

従来知られていた数百種類におよぶ中間子はすべて、1個のクォークと1個の反クォークが強い力で結合した状態として説明されてきたが、KEKB加速器を使ったBファクトリー実験では、X(3872)、Y(3940)、Z(4430)など、従来の理論では説明できない「エキゾチックハドロン」と呼ばれる10種類以上の粒子群を発見してきた※7。これらの新粒子は、陽子のおよそ4倍から4.5倍の質量をもち、チャーム・クォークと反チャーム・クォーク、及び他の2種類の4個のクォークでできたハドロン粒子である可能性が指摘され、世界中の研究者が注目していた。今回の発見は、チャーム・クォークよりもさらに重いボトム・クォークを含む「エキゾチックハドロン」が存在していることを明らかに示した成果である。

Bファクトリー実験は、粒子−反粒子対称性の破れ(「CP対称性の破れ」)の起源解明を目指して、1999年に実験が始まり、その成果が2008 年の小林・益川両博士のノーベル賞受賞につながった。そして、それだけでなく、世界最高ルミノシティーによる電子・陽電子衝突のデータは、予期せぬ成果として「エキゾチックハドロン」の相次ぐ発見をもたらし、これによって新しい研究対象が切り拓かれている。Belle実験の運転は既に終了しているが、世界最高ルミノシティーによる大量のデータが残されており、さらにKEKB/Belle実験の増強実験として計画されているSuperKEKB / Belle II 計画※8においては、現在の50倍に達するデータ収集を目指している。ストレンジ、チャーム、ボトムなどのクォークの種類はフレーバーと呼ばれるが、今後の研究によって、こうした多彩なフレーバーを持ったエキゾチックハドロンの全貌解明が期待される。クォークは強い力によって、単独では存在せずに、中間子などの複合粒子の中に閉じ込められてしまう。エキゾチックハドロンの全貌解明によって、強い力を記述する理論は量子色力学(りょうしいろりきがく)※9に基づいて、どのようなハドロン物質が生成されるのかという問題の理解がより一層進展することが期待される。

なお、この成果は2011年12月30日にフィジカルレビューレターズ誌に受理され、近日中に掲載される予定である。

【お問合せ先】

<研究内容に関すること>
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
素粒子原子核研究所 教授
堺井 義秀(さかい よしひで)(Belle実験共同代表)
TEL: 029-864-5335
FAX: 029-864-5340
E-mail: yoshihide.sakai@kek.jp

国立大学法人 名古屋大学
素粒子宇宙起源研究機構・現象解析研究センター 教授
飯嶋   徹(いいじま とおる)(Belle実験共同代表)
TEL: 052-789-2893
FAX: 052-782-5752
E-mail: iijima@hepl.phys.nagoya-u.ac.jp

<報道担当>
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
広報室長
森田 洋平(もりた ようへい)
TEL: 029-879-6047
FAX: 029-879-6049
E-mail: press@kek.jp

image_01.jpg図1:従来のハドロンと、エキゾチックハドロン。Bファクトリーでは、チャーム・クォーク(c)を含んだエキゾチック中間子の発見が相次いでいた。今回の見つかったZb粒子はボトム・クォーク(b)を含む粒子で電荷を有しているのが特徴である。ボトム・クォークと反ボトム・クォーク(b)だけだと必ず中性になるので、Zbにはこれ以外に最低2個のクォーク(例えばアップ・クォーク(u)と反ダウン・クォーク(d)が必要になる。

image_02.jpg図2:電子・陽電子衝突によってZb粒子ができた様子。Zb粒子は生成後すぐにボトモニウム(Υやhb粒子)と1個の荷電π中間子に壊れた。ボトモニウムはミュー粒子対(つい)に崩壊し、検出器で測定される。

image_03.jpg図3:測定したボトモニウムと荷電π中間子の運動量とエネルギーから計算した親粒子の質量の分布。左はボトモニウムがΥ粒子の場合、右はボトモニウムがhb粒子の場合である。いずれの場合にも質量値が10610MeV/c2と10650MeV/c2のところにZbの生成による事象の集中(ピーク)が見られる。

【用語解説】

※1:電子・陽電子衝突型加速器(KEK Bファクトリー:KEKB)
小林・益川両博士の理論(CP対称性の破れに関する小林・益川理論)を証明することを主目的に計画された大型の衝突型加速器。KEKBは一周が3000メートル以上にも及ぶ大型円形加速器2基からなり、各加速器リングには電子と陽電子のビームが蓄えられる。2本のリングは1か所で交差し、そこで電子とその反粒子である陽電子が衝突し素粒子反応がおこる。

※2:ハドロン
強い相互作用を記述する理論である量子色力学に従うと、クォークは単体では存在できず、他のクォークや反クォークとともに複合粒子を作り閉じ込められる。この複合粒子をハドロンと総称する。これまでに数百種類のハドロン粒子が見つかっているが、それらは全て、クォークと反クォークが結合したメゾン(中間子)とクォーク3個が結合したバリオン(重粒子)に分類されている。ところが、近年になって、Bファクトリーを始めとする幾つかの実験によって、従来のメソンやバリオンの描像に基づく理論では説明できないハドロン粒子が見つかり始めた。これを総称して「エキゾチックハドロン」と呼び、4個のクォークでできたテトラクォーク状態や5個のクォークでできたペンタクォーク状態の候補として注目されている(図1および注5参照)。

※3:クォーク
クォークとは、物質を構成する最も基本的な粒子で6種類が存在する。3つの階層に分類され、それぞれ[アップ, ダウン]、[チャーム, ストレンジ]、[トップ, ボトム]と名付けられている。このうち、アップ、チャーム、トップは電荷+2/3を、ダウン、ストレンジ、ボトムは電荷‐1/3を持つ。また、各クォークには反対符号の電荷を持つ反粒子(反クォーク)が存在する。

image_04.jpg

※4:Belle実験グループ
Belle 実験には国内外の以下の64研究機関から376名の研究者が参加している。
高エネルギー加速器研究機構 (KEK)、 千葉大学、広島工業大学、神奈川大学、名古屋大学、奈良女子大学、新潟大学、日本歯科大学、原子核物理連合、大阪市立大学、佐賀大学、信州大学、東邦大学、東北学院大学、東北大学、東京首都大学、東京大学、東京農工大、富山商船高専、Univ. of Melbourne、Univ. of Sydney (AUSTRALIA)、HEPHY, Austrian Academy of Sciences (AUSTRIA)、Institute of High Energy Physics、Peking Univ.、Univ. of Science and Technology of China (CHINA)、Charles University in Prague (CZECH)、Max-Planck-Institut fur Physik Muenchen、Univ. of Bonn、Univ. of Giessen、Univ. of Goettingen、Univ. of Karlsruhe (GERMANY)、 Indian Institute of Technology Guwahati、Indian Institute of Technology Madras、Institute of Mathematical and Sciences、Panjab Univ. Union Territory、Tata Institute of Fundamental Research (INDIA)、INFN Torino (ITALY)、Gyeongsang National Univ.、Hanyang Univ.、Korea Institute of Science and Technology Information、Korea Univ.、Kyungpook National Univ.、Seoul National Univ.、Sungkyunkwan univ.、Yonsei Univ. (KOREA)、Institute of Nuclear Physics PAN (POLAND)、Budker Institute of Nuclear Physics (BINP)、Institute for High Energy Physics、Institute for Theoretical and Experimental Physics (RUSSIA)、Univ. of Ljubljana、Univ. of Nova Gorica (SLOVENIA)、Ecole Polytechnique Federale de Lausanne (SWITZERLAND)、Fu Jen Catholic Univ.、National Central Univ.、National Taiwan Univ.、National United Univ. (TAIWAN)、Brookhaven National Laboratory、Indiana Univ.、Luther College、Pacific Northwest National Laboratory、Univ. of Cincinnati、Univ. of Hawaii、Virginia Polytechnic Institute and State Univ.、Wayne State Univ. (U.S.A.)

※5:世界最高ルミノシティー
ルミノシティーとは衝突型加速器の実験でどれだけたくさんの衝突事象を収集したかを表す量で、加速器のビーム強度と絞り込み制御、安定稼働、測定器のデータ収集能力などによって決まる。KEKB加速器は一日当たりの積分ルミノシティーが1.4794 /fb(インバース・フェムトバーン)を達成した(2009.06.14)。

※6:ボトモニウム
クォークと反クォークが強い力で結合してできた粒子をメゾン(中間子)と呼ぶが、このうち、ボトムクォークと反ボトムクォークが結合したものを特に「ボトモニウム中間子」と呼び、その量子状態によって、Υ(ウプシロン)、χb(カイビー)、hb(エイチビー)と表記される粒子が知られている。このうち、hbは長らく見つかっていなかったが、2011年3月にBファクトリー実験で見つかっていた。同じように、チャームクォークと反チャームクォークが結合したものは「チャーモニウム」と呼ばれ、J/ψ(ジェイ/プサイ)、χc(カイシー)、hc(エイチシー)と表記される粒子が知られている。

image_05.jpg

※7:「エキゾチックハドロン」と呼ばれる10種類以上の粒子群の発見
Bファクトリーでは、X(3872)、Y(4260)、Z(4430)などと呼ばれる新種の粒子の発見が相次いでいた。これらは、チャーモニウムと似た性質を有するが、その質量値が理論と食い違うなどの特異な性質があり、「エキゾチックハドロン」として注目されている。
参考記事:
「Belle実験の最新結果について−3種類の新しい中間子を発見−」KEKプレスリリース(2008年8月5日)
「Belle実験で新種の中間子を発見」KEKプレスリリース(2007年11月9日)
「Belleが新粒子発見−新しいタイプの中間子かー」KEKプレスリリース(2003年11月14日)

※8:Super KEKB / Belle II実験
KEK Bファクトリー計画の増強計画として、Super KEKB加速器計画が進行中である。この計画では、KEKB加速器のルミノシティーを40倍に増強するとともに、Belle測定器もより性能のよい検出器に生まれ変わる(Belle II 実験)。2015年に実験を開始し、現在のBファクトリーの50倍に達するデータ蓄積を目指している。これにより、B中間子やタウ・レプトンの崩壊における新物理の発見を目指している。この増強計画によって、エキゾチックハドロンの研究においても、より多彩な発見と詳細な研究が進むことが期待される。

※9:量子色力学(りょうしいろりきがく)
自然界の4つの基本相互作用の一つである「強い相互作用」の基礎理論。強い相互作用は、電磁相互作用などの他の相互作用に比べて力が著しく強いという特質をもつ。量子色力学に基づくと、クォークは「カラー荷」と呼ばれる量子数をもち、これを色の三原色(赤、緑、青)に例えることができる。自然界で観測される粒子は無色になるとされるため、クォークは単独では存在できず、ハドロンに閉じ込められる。

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関連サイト

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