宇宙が3次元で誕生する仕組み、解明へ

― 40年間未解決だった超弦理論の謎、スパコンで解明 ―

平成23年12月22日

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
国立大学法人 静岡大学
国立大学法人 大阪大学

【発表の骨子】
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)、静岡大学、大阪大学からなる研究チームは、計算機シミュレーションを用いて、超弦理論(ちょうげんりろん)※1の予言する10次元(空間9次元、時間1次元)から3次元空間を持つ宇宙が誕生する様子を解明することに、世界で初めて成功した。


【概 要】

ビッグバン宇宙論によると、宇宙は約137億年前、目に見えないほどの小さな点から大爆発とともに生まれたと考えられる。この理論は、宇宙背景輻射(うちゅうはいけいふくしゃ)※2や元素の組成などの観測データによって強く支持されている。一方、宇宙全体が小さな点であるような状況は、アインシュタインの一般相対性理論の適用限界を超えており、宇宙が実際どのように誕生したかを明らかにすることは、これまで成功していなかった。
素粒子の究極理論とされる「超弦理論」においては、すべての素粒子を極めて小さな「弦」の様々な振動のしかたとして表すが、その中には重力を媒介する粒子も含まれ、一般相対性理論を素粒子のスケールまで自然に拡張することができる。このことから超弦理論を用いれば、宇宙誕生の様子を解明できると期待されているが、弦の間に働く相互作用が強いため具体的な計算は難しく、様々なモデルやシナリオに基づく議論がなされる状況がこれまで続いていた。
特に、超弦理論においては、9次元※3の広がりを持つ空間が予言されており、我々の住む3次元空間とどう折り合いがつくのかは、大きな謎だった。
今回、西村淳(高エネルギー加速器研究機構・准教授)、土屋麻人(静岡大学・准教授)、金相佑(大阪大学・特任研究員)からなる研究チームは、超弦理論に基づき、宇宙誕生の様子をスーパーコンピュータによってシミュレーションすることに成功した。その結果、宇宙は最初9次元の空間的な広がりを持っていたが、ある時点で3方向だけが膨張し始めることが示された。

なお、本研究成果は、米国の科学誌『フィジカル・レビュー・レターズ』2012年1月6日号(オンライン版1月5日)に掲載された。
参考URL http://prl.aps.org/abstract/PRL/v108/i1/e011601
()オンライン版掲載日について改訂いたしました。(2012年1月12日)

【研究内容】

本研究では、弦の相互作用を表す、大きなサイズの行列(IKKT行列模型※4)を効率的に数値計算する手法を確立し、超弦理論に現れる9次元空間の様子が、時間とともにどう変化するかを計算した。図は、9方向の空間的な広がりを、時間の経過に対してプロットしたものである。宇宙の始まりに向かって過去に遡ると、確かに空間は9次元的に広がっているが、ある時点を境にして、3次元方向だけが急速に大きくなることが示された。この結果により、超弦理論の予測する9次元空間から、実際に我々の住む3次元空間が出現することが、世界で初めて解明された。
今回の計算には主に、京都大学基礎物理学研究所のスーパーコンピュータ「日立 SR16000」(理論演算性能 90.3テラフロップス)が用いられた。

【本研究の意義】

一般相対性理論を素粒子のスケールまで拡張する究極理論として、超弦理論が提唱されてから40年近くになるが、具体的な計算の難しさから、その実在性や有用性は明らかでなかった。本研究成果により、時空の次元の謎に対して新しい理解が得られたことは、超弦理論の実在性を示すものである。また本研究により、コンピュータを用いた超弦理論の新しい解析手法が確立したことは、この理論を様々な問題に応用する可能性を切り開くものである。例えば、宇宙初期に起こったと考えられているインフレーション※5や、今年のノーベル物理学賞の対象となった宇宙の加速膨張※6などの理論的解明が挙げられる。また、宇宙観測で示唆される暗黒物質や、LHC実験による発見が期待されるヒッグス粒子※7など、素粒子理論に残された謎の解明において、超弦理論がさらに発展し、重要な役割を果たすことが期待される。

【お問合せ先】

<研究内容に関すること>

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
素粒子原子核研究所 准教授
西村 淳(にしむら じゅん)
TEL: 029-864-5398
FAX: 029-864-5755
E-mail: jnishi@post.kek.jp

国立大学法人 静岡大学
理学部物理学科基礎物理学 准教授
土屋 麻人(つちや あさと)
TEL: 054-238-4737
FAX: 054-238-4737
E-mail: satsuch@ipc.shizuoka.ac.jp

国立大学法人 大阪大学
大学院理学研究科 特任研究員
金 相佑(キム サンウー)
TEL: 06-6850-5729
FAX: 06-6850-5379
E-mail: sang@het.phys.sci.osaka-u.ac.jp

<報道担当>

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
広報室長
森田 洋平(もりた ようへい)
TEL: 029-879-6047
FAX: 029-879-6049
E-mail: press@kek.jp

国立大学法人 静岡大学
広報室長
北川 陽子(きたがわ ようこ)
TEL: 054-238-5179
FAX: 054-237-0089
E-mail: koho@adb.shizuoka.ac.jp

国立大学法人 大阪大学
理学研究科庶務係
池田 雅人(いけだ まさと)、西ノ上 和彦(にしのうえ かずひこ)
TEL: 06-6850-5280
FAX: 06-6850-5288
E-mail: ri-syomu@office.osaka-u.ac.jp

image_01.jpg図:超弦理論に現れる9次元空間の持つ9方向の広がりを時間の経過に対してプロットしたもの。ある時点を境にして、9次元方向のうち3次元方向が膨張し始めることがわかる。

【用語解説】

※1:超弦理論
素粒子の間に働く基本的な相互作用としては、電磁気力、弱い相互作用、強い相互作用、重力の4つが存在する。重力以外の3つの相互作用を記述する理論は存在するが、重力を含めた素粒子理論に関しては、現在も様々な研究が進められている。超弦理論では、すべての素粒子を、一次元的な拡がりを持ったもの(「弦」)の様々な振動モードと考えることによって、重力を含めた4つの相互作用を統一的に記述することが可能になる。

※2:宇宙背景輻射
宇宙のあらゆる方向から、ほぼ一様に降り注ぐマイクロ波のこと。「ビッグバンの残り火」とも称され、宇宙が大爆発に始まり膨張し続けているとするビッグバン宇宙論の有力な証拠の一つとされる。1964年に米国のペンジアスとウィルソンによって偶然発見され、この業績により彼らは1978年にノーベル物理学賞を受賞した。現在、米航空宇宙局(NASA)が打ち上げたWMAP(ウィルキンソンマイクロ波異方性探査機)によって、より精密な観測が続けられており、その観測結果は宇宙論に大きな変革をもたらしてきた。

※3:9次元
我々の住む空間は3次元の広がりを持っているが、超弦理論では、空間が9次元でないと量子力学と矛盾することが知られている。したがって、9次元のうち、3次元以外の6次元空間は見えなくなっている必要がある。その代表的な方法として、余分な6次元空間を非常に小さく丸める「コンパクト化」が挙げられるが、その仕方が無数に存在することが、問題点の一つであった。

※4:IKKT行列模型
KEK理論グループの共同研究として石橋延幸(現:筑波大学)、川合光(現:京都大学)、北澤良久(現:KEK)、土屋麻人(現:静岡大学)が1996年に提唱した超弦理論の新しい定式化(IKKTは、4人の名前の頭文字を表す。)。超弦理論の従来の定式化は、弦の相互作用が弱い場合にのみ有効であるため、現実の物理現象への応用に適していなかった。IKKT行列模型は、大きなサイズの行列を基本的な力学的自由度としており、弦の相互作用が強い場合にも有効な定式化として考案された。これまでの研究では、技術的な理由のため、時間を虚数として扱う解析がなされており、その限りでは現実世界との関係性は明らかでなかった。本研究は、時間を実数として扱う解析の技術的困難を克服し、具体的な計算を行うことにより、宇宙論へ応用した初めてのものである。

※5:インフレーション
宇宙誕生後のごく短時間に起こったと考えられている、急激な加速膨張のこと。1980年代初頭に、佐藤勝彦(現:自然科学研究機構長)や米国のアラン・グースらによって初めて提唱された。インフレーションは、ビッグバン宇宙論における様々な問題点を自然に解決できる上、宇宙背景輻射の詳細な性質を正しく説明できるなどの成功を収めている。一方、インフレーションが起きる機構に関しては、様々なモデルが考案されているものの、超弦理論のような基礎的な理論からインフレーションを導出することは、重要な課題として残っている。

※6:宇宙の加速膨張
ビッグバン宇宙論によると、宇宙は約137億年前に誕生して以来、膨張を続けている。従来、この宇宙膨張は減速していると考えられていたが、ここ十数年ほどの宇宙観測のデータから、現在の宇宙膨張は加速していることが明らかになり、注目を集めている。2011年のノーベル物理学賞は、Ia型の超新星爆発の観測により、加速膨張の発見に寄与した業績に対して贈られることになった。一方、この加速膨張は、膨張しても密度が薄まらない謎のエネルギー(暗黒エネルギー)が、宇宙の全エネルギーの70パーセント以上を占めることを意味しており、理論物理学的観点からの解明が必要とされている。

※7:LHC実験による発見が期待されるヒッグス粒子
LHCとは、2008年の秋に、ジュネーブの郊外にある欧州原子核研究機構(CERN)にて稼働を開始した世界最大の加速器、大型ハドロン衝突型加速器(Large Hadron Collider)の略称であり、LHC実験とは、その加速器を用いて行われている実験の総称である。LHC実験の最大の目的の一つが、素粒子の標準模型において唯一未発見のヒッグス粒子を発見し、それに関連した素粒子理論の問題に対する手がかりを得ることである。ヒッグス粒子は、素粒子に質量を与える機構のために導入された粒子であるが、重力を含めた素粒子理論の観点からは不自然な点もあり、実験および理論の両面からの解明が待たれる。

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関連サイト

KEK理論センター
静岡大学理学部
大阪大学大学院理学研究科
京都大学基礎物理学研究所