2011年05月13日

張森氏、長倉研究奨励賞を受賞

2011年5月13日

3月24日、岡山光量子科学研究所研究員の張森氏が、平成22年度(第16回)長倉研究奨励賞を受賞しました。長倉研究奨励賞は、優秀な研究を行った総合研究大学院大学(総研大)の学生に対して授与される賞で、研究の奨励を目的とするものです。張氏は、KEKがキャンパスとなっている総研大素粒子原子核専攻を2011年3月に卒業しました。受賞対象となった研究は「時空地平線※1と量子ゆらぎ」です。これは、ブラックホールとウンルー効果という、時空地平線の現れる二つの状況に着目した、一般相対性理論と量子論の統一的理解を進める理論研究です。「一般相対性理論」は、現在宇宙の現象(マクロの世界の物理現象)をよく記述している理論であり「量子論」はミクロの現象を記述する理論です。この二つの理論を整合させる理論はまだ確立されておらず、物理研究の懸案事項となっています。

張氏は、ブラックホールの「熱平衡からの揺らぎ」に注目しました。そして、この揺らぎの定理を方程式で表し、そこからブラックホールの一般化された熱力学第二法則を導きました。これは、ミクロな物理法則からマクロの物理現象を記述する法則を導き出したことになります。さらに、この等式により、ブラックホールの熱力学第二法則が、ミクロの状態では破れているという考察が得られました。熱力学第二法則は「決して破れない」と考えられている根本的な自然法則であり、この考察をより詳細に解析することによって新たな研究の基礎となることが期待されます。

また張氏は、「ウンルー効果」※2にも注目しました。等加速度運動している物体の輻射(ゆらぎ運動による輻射)と量子力学的な干渉効果は相殺し合うと考えられていました。今回の張氏の研究により、その相殺は部分的にしか起きないことが明らかになりました。現在、ヨーロッパでウンルー効果を検証する実験が検討されており、張氏の研究から得られた干渉効果についての計算結論が証明されることが期待されます。

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<補足説明>


※注1:時空地平線

対象を観測することができる限界のこと。例えば、ブラックホールでは、それより内側からは光すら出てくることのできない境界面が「時空地平線」である。

※注2:ウンルー効果

真空中を等加速度直線運動している粒子に対し、その粒子が止まっているように一緒に走って観測すると、その粒子が有限な温度を持つ空間中を運動しているように見える効果のこと。温度は、粒子が粒子と激しくぶつかることで生じる現象なので、真空状態で粒子が温度を持つことは不思議な現象である。ホーキング博士によればブラックホールのまわりの真空からは、粒子と反粒子の対が生成され、その一方がブラックホールの中に落ち込み、もう一方が飛び出てくるという「ホーキング輻射」が起きる。同様に、加速運動している粒子に対しても、対生成により粒子が生まれることにより、真空に温度が生じる「ウンルー効果」となる。