2010年高エネルギー物理学国際会議(ICHEP)で、LHCの初めての実験結果を発表

2010年07月27日 トピックス

CERN Press Release PR15.10

2010年7月27日

ジュネーブ 7月26日:欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロンコライダー(LHC)における最初の実験結果が、高エネルギー物理学国際会議(ICHEP)において続々と発表されている。ICHEPは世界最大の素粒子物理学の国際会議。パリで開催中のこの会議には1000人以上が参加者している。LHCの4つの実験(ALICE、ATLAS、CMS、LHCb)の実験責任者は本日、ビームあたり3.5TeV(3.5兆電子ボルト)での実験開始から3か月間の結果を発表した。これは、これまでの加速器が記録した世界最高エネルギーの3.5倍にあたる。

この最初の結果発表の中では、標準模型(物質の基本となる粒子とその粒子間に働く力に関する現代物理学の研究から得られた知識の集大成)の中核をなす粒子の再発見が進んでいることが示されており、これは新たな発見に向けた必須のステップである。記録された何十億もの衝突反応の中には、トップクォークの衝突反応だと考えられるものが含まれている。トップクォークの観測はヨーロッパの研究所では初めて。

「『旧知の友人』たちである粒子を順調に発見していることは、LHCの実験グループが新しい領域に踏み込む準備ができているということだ」とCERN所長のロルフ・ホイヤー氏。「標準模型は(LHCのエネルギーでも)予想通りうまくはたらいているようだ。次は、自然が新しいものとして何を見せるかだ。」

ICHEPで報告された結果は、LHC加速器、実験ともに非常に良い性能が出ていることを示している。LHCはまだ初期段階であるが、最終到達値へ向けて順調に進んでいる。衝突頻度の目安となる指標「ルミノシティ」は、3月下旬から1000倍以上に向上している。LHCにおけるビーム運転の急速な進展に伴い、世界規模のLHC計算機グリッドでのデータ処理が進んでいる。このグリッドにより、世界中の共同研究の計算機センターで実験グループがデータを解析することができる。

「データを取り始めて数日のうちに、W粒子をそしてそのあとでZ粒子を見つけた。この2つの粒子は30年ほど前にCERNで発見された、弱い力を運ぶ粒子である」と3000人の共同研究であるアトラス実験責任者のファビオラ・ジァノッティ氏は語る。「これは、共同研究者全体の努力のたまものである。とくに、若い研究者たちの活躍によって、測定器でのデータ収集からデータの較正、データ処理、分配から、物理解析に至るまで、迅速に効率よく進めることができた」。

「こんなに迅速に、軽い共鳴粒子から非常に重いトップクォークまで、これまでに発見された粒子を再発見できたのは驚きだ。今回パリで発表したものは、最初の結果に過ぎず、今後これらの粒子の精密測定が始まる」とCMS実験責任者のグイド・トネリ氏は語る。「新粒子のシグナルを見るのに、バックグランドとなる事象を理解する必要があり、それには根気のいる、系統的な研究が必要だ」。

「LHCb実験は、ボトムクォークを含むB粒子の研究に専念した実験だ」と語るのは実験責任者のアンドレイ・ゴリュートビン氏。「既に数百のB粒子を見つけられているというのは非常にうれしい。たくさんの粒子の軌跡の中からこれらの粒子の崩壊を探し出せることを確認できているということになる」。

「現在の陽子・陽子衝突でのデータは、低いエネルギーでのこれまでの実験結果と合わせて、LHCでの重イオン衝突で何が起こるかの予想を吟味し改善させるのに重要であり、実際の重イオン衝突の準備となる」と アリス実験責任者のユルゲン・シュークラフト氏はいう。アリス実験は鉛イオンと鉛イオンの衝突実験に特化した実験で、最初の衝突実験を今年の後半に行うことになっている。

他の2つの実験も、ビームあたり3.5TeVの衝突エネルギーでの数カ月の実験の成果がでている。LHCf実験は、大気中での宇宙線の反応を理解するために、陽子・陽子衝突での中性粒子の生成を研究するグループであり、すでに、3.5TeVビームで必要な分のデータを収集している。TOTEMは陽子について詳しく研究する実験であり、最初の測定を始めようとしている。この実験では、測定器をビームに非常に近づける必要がある。

CERNは今後、各実験グループが様々な物理研究において大きく進展するのに十分な量のデータを取れるように、18-24ヶ月間LHCを運転する予定である。この運転期間で取得することが期待されるデータ量は「1fb-1(インバースフェムトバーン)」と呼ばれ、この大量なデータによって、各実験グループは新しい研究領域へ進むことが可能となり、重要な新発見につながることが期待される。

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図1

画像提供:CERN

アリス実験で観測した、重心系エネルギー7TeVでの初期の衝突事象。衝突点である測定器の中心から、生成した粒子がたくさん放出されている。


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図2

画像提供:CERN

アリス実験で観測した、重心系エネルギー7TeVでの初期の衝突事象。衝突点である測定器の中心から、生成した粒子がたくさん放出されている。


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図3

画像提供:CERN

重心系エネルギー7TeVでの衝突で、Zボゾンが電子・陽電子対に崩壊した事象の候補。電子、陽電子のトラックは黄色で示してある。(アトラス実験)


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図4

画像提供:CERN

重心系エネルギー7TeVでの衝突で、Wボゾンがミュー粒子(赤いトラック)と観測にかからないニュートリノ(破線)に崩壊した事象の候補。(アトラス実験)


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図5

画像提供:CERN

CMS実験で観測された、トップクォーク対生成事象の候補。両方のトップクォークがそれぞれWとbクォークに崩壊し、両方のWともミュー粒子とニュートリノに崩壊した候補である。測定器には、2つのミュー粒子(赤線)、bクォークからきたと同定された2本のジェットと、逃げていったニュートリノによる欠損運動量が観測されている。


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図6

画像提供:CERN

CMS実験におけるWボゾン生成事象。Wが電子(青線)と見えないニュートリノ(矢印の方向に放出)に崩壊した。


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図7

画像提供:CERN

LHCb実験で観測した、Zボゾンが2つのミュー粒子(太い白線)に崩壊した事象。緑色の点は、ミュー粒子がミューオン検出器を突き抜けたことを示している。


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図8

画像提供:CERN

LHCbで観測されたBs粒子の崩壊事象の拡大図。Bs粒子はボトムクォークとストレンジクォークを含む粒子。