電池革命

2016年6月22日

KEK物質構造科学研究所の米村雅雄 特別准教授(左)と東京工業大学の菅野了次 教授(右)

もし数秒でスマホの充電が出来たら...。そんな風に思ったことのある人もいるのではないだろうか。街中を見渡せば、行き交うハイブリッド自動車、人々の手にはスマホ、カフェではパソコンや、タブレットに向かう人たち。私たちの生活は、もはや蓄電池と切り離せなくなっている。

現在最も普及している蓄電池といえば、リチウムイオン電池だ。蓄電池の研究に30年以上携わってきた東京工業大学の菅野了次教授はリチウムイオン電池を「優秀な電池」と評する。蓄電池の性能は、エネルギー密度(重量あたりWh/kgまたは体積あたりWh/L)の大きさで測られる。エネルギー密度が高いほど、小型で大容量を意味し、長時間の給電が可能になる。リチウムイオン電池のエネルギー密度が100〜200Wh/kg、それに対し菅野教授らが発表した電池は300〜500Wh/kgと大容量、かつリチウムイオン電池の3倍以上の大電流も得られることを示した。

図1 キャパシタ(緑)、リチウムイオン電池(赤)と今回開発した全固体電池(青)の性能
全固体電池は、LPGSとLiSiGePClを、電解質、負極用電解質に用いた物質群のプロットを示す。以下、負極/電解質/正極の順。
□:グラファイト+LPS /
LGPS / LiCoO2+LGPS
△:Li4Ti5O12+LSiPSCl / LSiPSCl / LiCoO2+LSiPSCl
○:Li4Ti5O12+LGPS / LGPS / LiCoO2+LGPS

大容量かつ大電流という性能は、ハイブリッド車や電気自動車といった車載用蓄電池に求められている。限られた空間に電気を多く蓄え、長時間駆動できること。かつ発進時や加速時には瞬間的に大電流が必要になるからだ。現在普及しているリチウムイオン電池は高いエネルギー密度により大容量を可能にしているが、大電流を得ることが難しい。そこで大電流にはキャパシタという蓄電池の一種が使われる。キャパシタは大電流により瞬時の充放電を可能とするが、エネルギーの高密度化、つまり大容量化が難しい。大容量かつ大電流の両方を兼ね備えた蓄電池は存在せず、必要に応じて使い分けられている。菅野教授らが発表した、大容量かつ大電流を可能にした蓄電池は世界最高の伝導率を示す超イオン伝導体の開発によって実現した(図1)。

イオン伝導体とはリチウムイオン電池でいう、電極と電極の間にある電解液に相当する部分(図2 左)。リチウムイオン電池では、有機溶媒による電解液を使用しており、時に発熱に伴う発火を起こすことが、優秀な電池最大の弱点であった。近年では改良が進んでいるものの、電解液が有機溶媒である限り、安全性の問題がつきまとう。この弱点を原理的に回避しようと開発されてきたのが、電解液の代わりに固体のイオン伝導体を使用する全固体電池(図2 右)。特に電池の構成部材である正極、電解質、負極の全てをセラミックスで構成したものを全固体セラミックス電池といい、電解液に比べ安全性は向上する。

図2 液体電池(左)と固体電池(右)の模式図
左:液体電池(負極-電解液-正極)
電極から放出されたLiイオンは、電解液中を溶媒分子とゆるく結合した大きな塊となって移動する。電極界面で溶媒分子から離れ、再びLiイオン単体となって電極に入る。
右:全固体電池(負極-固体電解質-正極)
固体電解質の場合、電解質中でもLiイオン単体のまま拡散し、電極間を移動する。

リチウムイオン電池のもう一つの弱点は大電流を得られないこと。それは電解液/電極という構造的な理由にある。負極でリチウムイオンが電解液から電極に取り込まれるスピードに対し、電解液中のリチウムイオンの移動が遅く、結果、電極周辺でリチウムイオンが存在しない状態になる。リチウムイオンの供給が追い付かず、電流はある程度で頭打ちになる。

一方、固体電解質の場合はリチウムイオンが単体で拡散、移動する。そのため、電解質中、電解質/電極でリチウムイオンの移動スピードに差が生じにくく、スムーズに流れる。リチウムイオンが高速に拡散できる固体さえあれば、大電流を得られる。ところが、電解液を超えるイオン伝導度をもつ固体電解質を実現することができず、長年の課題となっていた。

イオンの通り道
イオンの通り道を結晶内に構築すれば、伝導率は必ず上がるはず。そう考え物質探索を続ける中、2011年にリチウム(Li)、ゲルマニウム(Ge)、リン(P)、イオウ(S)から成る結晶(以下LGPS)で既存の電解液と同等の伝導率を達成した*1。この結晶を改良して開発したのが、電解質に適した超イオン伝導体(Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3)と、負極材料に適したLi9.6P3S12である*2。両者とも既存の電解液、固体電解質を超えた世界一のイオン伝導度を示した。イオンの通り道をJ-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)にある材料構造解析装置iMATERIAで調べると、3次元に広がった通り道を捉えることができた(図3 右)。「あまりにもきれいに現れすぎて、一瞬、疑うほどでした。」そう語るのは、KEK物質構造科学研究所の米村雅雄 特別准教授。iMATERIAを設計から手掛け、中性子回折データからイオンの通り道を導いた構造解析の専門家。現在は蓄電池専用の中性子構造解析装置SPICAを運用している。注目すべきはその温度で、LGPSの場合、室温付近では通り道が1次元方向だけ存在し、高温にすることで、3次元拡散へと変化した(図3 左)。一方、改良した超イオン伝導体では室温(25℃)で既に明瞭な経路が3次元に広がっており、これまでにない異次元の伝導体の開発に成功した。

図3 開発したイオン伝導体の構造とイオンの通り道 左がLPGS、右がLi9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3。イオンの通り道は、回折データから得た結晶構造をMEM(Maximum Entropy Method)解析することで、イオン拡散経路を視覚化したもの。

電池としての性能も
これら超イオン伝導体を電池として組み上げると、電流の流出入量がリチウムイオン電池の3倍以上を示した。これは充電時間を数分にまで短縮、200〜600Vクラスの電池で体積を2〜4分の1にまで小さくできる可能性に匹敵する。しかもこの電池は、-30℃〜100℃の環境下でも既存の電池より優れた充放電特性を示し、1000回の充放電実験でも性能の劣化は殆んど見られなかった。結果を目の当たりにした菅野教授は「将来は、液体の電池が無くなるのではないかと思うほど、私自身、本当に驚きました。」と語る。「全固体電池が純粋に電池として優れていることが認められれば、利用は必然と広がります。」と自負する。加えて「私たちは共同研究相手に非常に恵まれています。通常、大学単独では物質探索から材料まで。電池として実証するには大きな隔たりがあるのです。長年トヨタ自動車さんと共同研究をしてきて、彼らが電池として組み上げ、電気自動車として動かすなどの実証を行ってくれています。」実用材料の開発をミクロからマクロまで一貫して行う難しさを語った。

探究はまだ終わらない。通り道はいわば、イオンの居場所を無限に長い時間で平均化したもの。次のステップとして、中性子準弾性散乱という手法を利用してリチウムイオンの動きを捉えようとしている。中性子準弾性散乱では、リチウムイオンが留まりやすい場所を飛び石のようにホッピングしていく様子を捉えることができる。つまり、ホッピングの移動距離が長いほど、そして滞在時間が短いほど、イオンの移動速度が速くなり、電流が流れやすいことを示す。リチウムは信号強度が弱いため、それを捉えるには大強度の中性子ビームと低バックグラウンドを兼ね備えた装置が必要であり、MLFにあるダイナミクス解析装置(DNA)だけで見ることが出来る。その結果を基にさらに次世代の材料を設計し、よりイオンの流れを最適化した材料を開発したいと米村特別准教授は語った。


*1 Nature Materials 10, 682-686 (2011)[doi:10.1038/nmat3066]
*2 Nature Energy 1, 16030(2016)[doi:10.1038/nenergy.2016.30]

関連サイト
物質構造科学研究所
J-PARC物質・生命科学実験施設
東京工業大学 菅野・平山研究室

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